研究課題/領域番号 |
13J04602
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 大輔 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 共役高分子 / 狭バンドギャップ高分子 / 電子輸送性高分子 / 高分子ブレンド / 相分離構造 / 過渡吸収分光法 / 有機エレクトロニクス |
研究概要 |
電子ドナー(D)、電子アクセプター(A)材料ともに共役高分子を用いた全高分子型太陽電池は、光捕集や電荷輸送の観点からA材料にフラーレンを用いた従来型に勝る特性が期待できる。しかし、そのエネルギー変換効率は2%以下に低迷しており、原因も明らかではない。本研究では、全高分子型の特性向上と高効率太陽電池の設計指針確立を目的とした。 本年度は、近赤外光も吸収可能な狭バンドギャップ高分子をD/A両材料に用いて光吸収量を増加させ、D/A組成を大きく変化させることで特性向上を図った。その結果、特性は組成依存し、D組成を高くするにつれて、エネルギー変換効率が1.4%から4.1%まで向上した。この原因について、電荷生成の観点から考察するため蛍光消光率を評価したところ、D組成が高い場合、AだけではなくD材料も高い消光率を示すことがわかった。D/A材料の吸収および蛍光スペクトルから、DからA材料へのエネルギー移動により効率よく電荷を生成することがわかった。一方、電荷輸送の観点から考察するため電荷移動度を評価したところ、D組成が高い場合、正孔と電子移動度が均衡することで効率よく電荷が輸送されることがわかった。さらに、過渡吸収分光法により電荷キャリアの生成・再結合ダイナミクスを評価したところ、D材料からのエネルギー移動により生成したA材料の励起状態から、界面電荷分離反応が非常に高速で起こることで効率よく電荷キャリアが生成し、生成キャリアが長い寿命をもつことがわかった。 以上から、狭バンドギャップ高分子による光吸収量の増加、エネルギー移動による効率的な電荷生成、電荷移動度均衡による効率的な電荷輸送が特性向上に寄与したと結論した。本研究は、全高分子型において、エネルギー移動を利用することで特性向上を実現した初めての報告である。今後、エネルギー移動を利用できるD/A材料の選択により、さらなる特性向上に結びつくものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、設計指針に基づいた太陽電池の高効率化に関しては、期待以上の成果が得られている。これまで全高分子型太陽電池のエネルギー変換効率は2%以下に低迷していたが、光吸収鰍を飛躍的に向上させることができる狭バンドギャップ高分子を用い、そのうえ混合比を最適化することで、効率を4%まで向上させることに成功した。また、光電変換素過程の解明に関しても研究は進展しており、まもなく論文化する予定である。一方、内部構造評価に関しては、未着手の研究が残っており、今後重点的に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、設計指針に基づいた太陽電池の高効率化と光電変換素過程の解明に関しては、期待以上の成果が得られている。しかしながら、内部構造の評価に関しては、手法の確立に時間を要しており、未着手の研究が残っている。今後は、この内部構造評価について重点的に研究を行い、ミクロな内部構造とマクロな太陽電池特性とのかかわりについて議論を行う。高分子材料の分子量や製膜条件などにより構造変化を誘起させ、相分離ドメインサイズや三次元ネットワーク構造などの内部構造変化を種々の顕微鏡を用いて解析する。これにより、太陽電池特性を支配している構造因子を明らかにし、さらなる特性向上のための設計指針を確立することを目標として研究を行う予定である。
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