研究課題/領域番号 |
13J04602
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 大輔 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 共役高分子 / 狭バンドギャップ高分子 / 電子輸送性高分子 / 高分子ブレンド / 相分離構造 / 過渡吸収分光法 / 有機エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
電子ドナー(D)、電子アクセプター(A)材料ともに共役高分子を用いた全高分子型太陽電池は、光捕集や電荷輸送、開放電圧の観点から、A材料にフラーレンを用いた従来の太陽電池に勝る特性が期待できる。しかし、そのエネルギー変換効率は2%以下に低迷しており原因も明確ではない。本研究では、全高分子型の特性向上と高効率太陽電池の設計指針確立を目的とした。 本年度は、まず、P3HT/PF12TBTブレンド薄膜に対して、過渡吸収分光測定を行うことで、熱アニールによる素子特性向上の要因を光電変換素過程の観点から議論した。その結果、熱アニール前のブレンド膜では、生成電荷の大半が2500psの時定数で対再結合により失活し、光電流に寄与できる長寿命の自由電荷がわずか36%しか存在しないことを示した。一方で、熱アニール処理は、対再結合による失活を減少させ、自由電荷生成効率の向上につながることを明らかにした。アニール前では、D/A両材料が明確な相分離ネットワーク構造を形成しておらずドメイン内の純度も低いため、生成した電荷が自由に解離・拡散できずに対をなしたまま再結合する。一方で、熱アニールによる、ネットワーク形成とドメイン純度の向上、P3HTの結晶化よる電荷移動度の向上が、対再結合の抑制につながり、素子特性の向上に結び付くことを示した。 さらに、近赤外光吸収と高い電荷輸送度を有する共役高分子をDおよびA両材料に用いることでさらなるPCE向上に挑んだ。ベンゾジチオフェン誘導体とチエノチオフェン誘導体との共重合体(PBDTTT-EF-T)をD材料として、N2200をA材料として用いた太陽電池を開発した。光吸収波長、相分離構造、電荷移動度の観点からD、A共役高分子材料を適切に選択できた結果、5.7%のPCEを達成し、共役高分子の相分離膜が有機太陽電池の発電層として極めて高い能力を有することを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、エネルギー変換効率(PCE)の向上に関しては、期待以上の成果が得られている。前年度には、光吸収量を飛躍的に向上させることができる狭バンドギャップ高分子を導入することでPCEを4%まで向上させた。今年度は、高い電荷輸送能をもつ狭バンドギャップ高分子をDおよびA両材料に用いることで、6%に迫るPCEを達成できた。また、過渡吸収分光測定による光電変換素過程の評価にも成功し、論文化することができた。さらに、その評価を通して内部構造に関する知見も得られたため、当初の計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、全高分子型薄膜太陽電池において、適切な電子ドナー(D)およびアクセプター(A)材料の選択とブレンド薄膜の内部構造最適化により、2%程度に低迷していたエネルギー変換効率(PCE)を5.7%まで向上させることに成功した。しかし、A材料にフラーレンを用いた従来の高分子薄膜太陽電池では10%を超えるPCEが実現されている。全高分子型の実用化のためには、フラーレン型程度のPCEを達成する必要があり、そのためには、報告例の少ない新規電子アクセプター性高分子の開発が急務であると考えられる。D材料だけではなくA材料の多様化により、さらなるDとA材料の組合せの選択肢が増え、PCEの向上も期待できる。
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