研究課題/領域番号 |
13J04625
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
片平 浩孝 北海道大学, 地球環境科学院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 寄生虫 / 通し回遊魚 / 生物標識 |
研究実績の概要 |
寄生虫は、一般的に「宿主に害を与える」という悪いイメージで捉えられがちであるが、水産分野においては「生きた標識」として宿主の系群識別、移動、食性、資源変動さらには系統進化といった幅広い分野に活用されてきた。本研究の目的は、最新技術との併用ならびに整合性を計ることによってこれら寄生虫の有用性を拡張し、従来の技術のみでは知り得ることのできなかった通し回遊魚における未知の生態を明らかにすることにある。 採用第二年度を迎え、これまでに得られた寄生虫標本の種同定を主として行い、データ整理に努めた。また、当初の計画では、得られた寄生虫標本を対象として集団遺伝解析を実施する予定であったが、本解析については鋭意継続中である。なお、本年度における主な成果は以下の2つである: 1.これまでの野外における通し回遊魚を対象とした寄生虫研究の経験を生かし、他大学の研究者と共同で企画集会を立ち上げ、学会にて講演した。 2. 宿主は違えども、共通した寄生虫あるいは近縁な寄生虫の種が得られることはよくあるため、一連の同定作業を通じて、今まで保管していた寄生虫の理解が深まることがしばしば生じる。本課題における寄生虫のサンプリングによって、同じく通し回遊性の生活史(遡河回遊性)を有するカワヤツメにおける寄生虫の理解が進み、そのアイデアを論文としてとりまとめることができた:これまで得られた寄生虫標本の比較検討により、海洋生活期におけるカワヤツメ成魚にも、食物連鎖を介して感染する寄生虫種が感染していることが明らかとなった。カワヤツメは、他生物に取り付く特異な摂餌様式のため、しばしば寄生者として扱われてきたが、本論文では、寄生虫の存在から、本種が沿岸生態系において高次捕食者として機能していることを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全国的採集から、必要な寄生虫サンプルを概ね集積することができたが、分類学的問題を含んだ種が多く見られたため、その対応に多くの時間を費やしている。こうした発見を論文化して成果報告に努めている一方で、当初の計画にあった、特定の寄生虫を対象とした集団遺伝学的解析の進展に遅れが生じている。以上の理由から、申請時の計画からやや遅れているとの自己判断を下した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の核心は、従来の古典的な寄生虫調査に対して、遺伝解析や耳石微量元素分析などの最新技術を複合的に組み合わせることにある。最終年度では、遅延している遺伝解析に集中的に取り組み、各対象種における集団構造を明らかにする計画である。なお、一連の調査活動を通じて得られた寄生虫の分類学的および生態学的成果を引き続き論文としてまとめ、成果を速やかに公開していく。
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