寄生虫は、一般的に宿主に害を与えるという悪いイメージで捉えられがちであるが、水産分野においては「生きた標識」として宿主の系群識別、移動、食性、資源変動さらには系統進化といった幅広い分野に活用されてきた。本研究の目的は、最新技術との併用ならびに整合性を計ることによってこれら寄生虫の有用性を拡張し、従来の技術のみでは知り得ることのできなかった通し回遊魚における未知の生態を明らかにすることにある。最終年度は、これまでに得られた寄生虫標本の種同定を終わらせるとともに、データの取りまとめに努めた。 1.耳石微量元素分析(Sr/Ca比による生活史履歴推定)と寄生虫感染を比較することにより、ウグイ類において特に春の産卵遡上時に、比較的精度良く(正答率85.7-95%)宿主の生活史履歴を寄生虫から推定できることを明らかにした。今後、すべての採集河川におけるデータ整理を終えたのち論文としてまとめる計画である。 2. 本課題ではニホンウナギも対象宿主としていたが、昨今の資源危機のあおりを受けて円滑な採集を実施することが困難となり、当初計画していたサンプル数を期間内に確保するに至らなかった。寄生虫の集団構造から宿主の移動性や分散を明らかにすることが本宿主を用いる目的であったため、この関係性を検証するに足る代わりとして、北海道に生息する回遊性のオショロコマ-エゾビルの系に着目し調査を遂行した。これにより、特に半閉鎖的な水系における宿主-寄生者関係において、たとえ数キロ程度の空間スケールであっても、隔離された局所個体群が形成される可能性が見出され、今後の研究展開の礎を築くことができた。 なお、本課題の根源にある寄生虫を宿主の生態研究に活かすアプローチは、他の宿主生物にも幅広く応用することができる。最終年度では、これに関連する成果の一部を国際誌に報告している(Kanaiwa et al. 2016)。
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