高温下での銅含有亜硝酸還元酵素(CuNIR)の亜硝酸結合型構造を解析し、結果を論文として発表することができた。耐熱性酵素における基質結合様式が、低温構造と高温構造で異なることがある事実を明らかにした初めての例であり、本研究の目的を達成したといえる。 亜硝酸非結合型構造もいくつか解析したが、活性中心の銅サイト上部に、楕円状の強い電子密度が常に観測された。これを精製に用いた緩衝液中の塩化物イオン由来の電子密度だと考え、塩化物イオンを含まないサンプルで構造解析を試みたがやはり同様の電子密度が観測された。CuNIRは酸素を過酸化水素へ還元する反応も触媒するため、これが酸素由来の電子密度であると仮説を立て、顕微分光とX線回折データの同時測定をおこなった。この結果、酸素分子種がX線照射によって銅サイトに結合するらしいことが明らかになった。CuNIRの酸素還元機構については30年以上不明であったが、本研究ではじめて酸素結合型構造が得られ、反応機構を提唱することができた。 酸素分子種の結合がシンクロトロンX線照射によって誘起されることは、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた構造解析からも支持された。XFEL構造では、酸素として帰属できる強い電子密度は観測されなかった。さらにデータを詳しく解析したところ、活性部位上部に存在し、亜硝酸還元反応に必須のHis244の構造が、シンクロトロン構造とXFEL構造で異なることを発見した。この構造変化によってHis244は水素結合の相手を変えていた。別のCuNIR (AfNIR)でもシンクロトロン構造とXFEL構造を決定し、同様の構造変化を観察できた。銅サイトの還元と同時におこるヒスチジンの構造変化と水素結合の組み換えは、亜硝酸へのプロトン移動反応に関与していると考えられ、CuNIRにおけるプロトン共役型電子移動に関する新たな機構を提唱するものである。
|