本研究では、中央アジア・シベリア地域の織物技術体系復元と、織物交流の様相からシルクロードの文化交流の実態解明に取り組んだ。どのような織物がどこで製作され、どこへもたらされたのか、東アジアや日本との比較を通して明らかにすることが目的である。従来のシルクロードの織物研究で扱われてきた錦や綾などの高級絹織物に加えて、本研究では毛織物や棉織物、文様や材質の特定が難しい炭化や金属錆着化した織物についても調査を行ってきた。これにより、在地の織物技術体系を復元し、交易織物が生まれる背景を明らかにするためである。技術・文様・材質などから各地域の織物の特徴を明らかにし、日本や東アジアとの比較が可能になれば、シルクロードの織物文化と交流の実態解明、さらに我が国の織物研究に大きな進展をもたらす可能性がある。また、従来個々に研究されがちであった織物の①文様の図像学的研究、②織技術の分析学的研究、③文献資料学的研究、さらに考古資料の分析を補助する④民俗調査、より詳細な情報を引き出す⑤科学的調査を実施し、これらを総合的に検討した。 当該年度はウズベキスタンとモンゴルにおいて調査を実施した。ウズベキスタンでは、鉄器時代遺跡出土の土器内部に残る布圧痕、さらに7世紀の都城から出土した織物類の調査を実施した。これにより、ほとんど知られていなかった紀元前の織物技術と、当該地域において棉織物が盛んに利用されていたことが明らかになった。モンゴルでは、匈奴時代(1世紀頃)、突厥時代(7世紀)、モンゴル帝国時代(13世紀)の遺跡から出土した織物を調査した。東アジア・中央アジア出土品と同様の織物を多数確認しており、シルクロードの東西から織物がたらされたことが明らかになった
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