適応度に最も強く影響を与える出生率の自発的な低下を伴う少子化は,ヒトの行動や生態を理解する上で大きな課題である.以下,特別研究員研究報告書に記載した内容をもとに,主要な成果を中心に報告する. 研究1:子どもの数をめぐる父母間(夫妻間)の性的対立 ヒトにおいても,出産や子育てに伴うコストは男性よりも女性の方が大きいため,父母間で性的対立が生じていると予測される.そして,配偶者の変更が可能な配偶システムのもとでは,欲しい子どもの数は男性よりも女性の方が少なくなると予測される.これらのことから,「女性の社会進出により,少ない子どもを望む女性の意思決定が男性より大きな影響力をもつようになれば,出生率は低下するのではないか」という仮説を立て,アンケート調査を子育て支援施設において行い検証した.その結果は,予測に反して,多くの場合,父母間で欲しい子どもの数は一致していた.また,子どもをもつことに対して,両親の希望が等しく重視された夫婦が最も多かった.これらの結果から,現在の社会では養育費の負担などによって,配偶者の変更に伴う男性のコストが非常に大きいことが考えられる. 研究2:出産の起こりやすさに影響を与える要因 生活史戦略の理論からは,子育てにとって好条件になった時に出産が多く生じていると予測される.本研究では,『消費生活に関するパネル調査』のソースデータを用いて,この予測を検証した.分析の結果,こちらも予測に反して,子育てにとって好条件になった時に出産が多く生じていることはなかった.さらに,子どもがすでに二人居ると,その後の出産が急激に起こりにくくなることがわかった.二人という子どもの数は,進化的には非適応的なレベルに少数であるため,今後はこの背景をさらに探求する. その他,数理モデルを用いて,子どもの質をめぐる競争的社会環境や,繁殖以外の選択肢の魅力が出生率に与える影響を研究した.
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