研究概要 |
本年度はRTNを実シリコンで測定するために必要な回路試作を行った. RTNはトランジスタの閾値電圧が時間変化する現象のことであり, ゲート絶縁膜に存在する欠陥にキャリアが捕獲・放出されることで発生すると考えられている. 微細なトランジスタではRTNが特性ばらつきの主要因の1つになると言われ, 動的に変化する特性変動にロバストな回路設計が求められている. RTNを測定するためには, 実際の回路に現れる端子電位を再現できる必要がある. 試作回路ではパスゲートスイッチを使い, チップ外部から供給する電圧と被測定トランジスタ間の接続を切り替える機構を導入した. しかしスイッチを微小なリーク電流が流れるため, 大規模な測定回路にスケールさせることが出来ない. そこで, リーク電流を回収する経路を追加し, 測定に与える影響を低減させることで, 数千個の被測定トランジスタを搭載したアレイの実現が可能になった. さらにRTNは時間変化する現象であるため, 統計的に信頼できる測定結果を得るためには1全ての被測定トランジスタについて, バイアスが与えられる時間及び測定タイミングを正確に一致させる必要がある. このため, 制御回路を変更し全ての動作をグローバルクロックに同期させることでタイミングのばらつきを最小限に抑える機構を導入した. 上記コンセプトを採用した回路を180nm及び28nmのプロセスで試作した, 180nmプロセスで試作した回路は完成品が納品され, 設計意図に沿った動作を確認出来ている. 28nmで試作した回路については, 未だ納品されていないが, 180nmで試作した回路とほぼ同様の機構を搭載しているため, 当初想定していた結果が得られる予定である. ここで試作により実証した回路方式はプロセス開発時に, RTNやNBTIの影響を高速に測定し, トランジスタモデルを導出するために活用できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究目標はRTNを実シリコンで測定するにあたって必要な回路を試作することであった. 180nm及び28nmのプロセスで試作を実施できたため, 回路試作については目標を達成したといえる, 一方, 論文の執筆等, 成果を纏める作業が若干遅れ気味である.
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今後の研究の推進方策 |
論文の執筆に重点を置きつ, 当初の計画に沿って研究を進めていく予定である. また, 実シリコンで評価したRTNに関する知見を, 回路設計にフィードバックできる環境の準備を進める. 特にSRAMは非常に低い不良率が要求されており, RTNを考慮しない場合でも設計時に不良率を高精度に予測することは重要な課題として認識されている. 今後は従来の不良率解析においてRTNを考慮できるよう, 拡張を施す予定である. さらにRTNに特徴的な要素である, 時間方向の特性変動を考慮する際に, 計算量を抑える手法を開発する.
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