V1-ATPaseのX線結晶構造解析によるヌクレオチドの結合親和性測定のため、昨年度は高濃度のPi存在下でのV1-ATPase構造を明らかにした。本年度では低濃度のADP存在下、高濃度のADP存在下、低濃度のPi存在下でのV1-ATPase構造を明らかにした。低濃度のADP存在下のV1-ATPaseの2つのヌクレオチド結合部位には2分子のADPが結合し、全体構造がすでに明らかになっていたヌクレオチド非結合型V1-ATPaseと異なっていた。更に高濃度のADP存在下のV1-ATPaseの3つのヌクレオチド結合部位には3分子のADPが結合し、全体構造は2分子のADPが結合したV1-ATPaseよりも更に変化していた。これらの構造を比較することで、2分子のADPが結合した構造はATP結合待ちの反応中間体構造であり、3分子のADPが結合した構造はADP解離待ちの反応中間体構造であると示唆された。また低濃度のPi存在下のV1-ATPaseにはPiが結合していなかった。このことからPiの結合親和性はADPよりも低いことが示唆された。これらの構造情報からV1-ATPaseの更なる回転メカニズムを提示することができた。 また昨年に引き続きATP加水分解遷移状態構造を示すV1-ATPase構造を明らかにするために、AlFX-とADPが結合したV1-ATPaseのX線結晶構造解析を行った。共結晶化の他にAlFX-とADPが含まれた溶液にヌクレオチドが結合していないV1-ATPaseの結晶を漬け込み、X線回折実験を行い、最高分解能4Åの回折点が得られた。
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