研究課題/領域番号 |
13J04672
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 恵美悠 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心筋細胞 / 細胞壊死 / 細胞外光増感反応 / 電気伝導遮断 / タラポルフィンナトリウム |
研究実績の概要 |
細胞外光増感反応を応用した新しい頻脈性不整脈の電気伝導遮断治療である光線力学アブレーションの基礎検討として、温度変化による細胞外光増感反応への影響調査、即時的な細胞壊死発生に要する時間、薬剤分布に伴う慢性期の殺細胞効果についてさらに調査を行った。アルブミン、高密度リポ蛋白、低密度リポ蛋白について、17, 27, 37℃におけるタラポルフィンナトリウムとの結合率を測定した。17℃から37℃の加温によって、0.04 mg/mlの高密度リポ蛋白で6.3%、0.14 mg/mlの低密度リポ蛋白で12.8%結合率が低下した。溶液温度が17℃のときと比較して、37℃のときに細胞外光増感反応による心筋細胞死細胞率が有意に上昇したことから、加温によって血清蛋白との結合率が低下し、細胞外光増感反応による殺細胞効果が上昇すると考えられる。Fluo-4 AMと共焦点顕微鏡を用いた心筋細胞内カルシウムイオン濃度変化の計測を行い、タラポルフィンナトリウム濃度10-30 μg/ml、放射照度0.03-0.29 W/cm2、放射照射量10-40 J/cm2で調査した結果、細胞壊死発生までの時間の平均値は300-500 sであった。光線力学アブレーションでは、心筋組織内における光伝搬に伴って放射照度が低下するため、対象とする心筋組織厚みによって電気伝導遮断までに要する時間が変化することがわかった。薬剤接触時間の増加に伴う心筋細胞内への薬剤の取り込み及び、反応後24時間後の死細胞率を調査した。光増感反応24時間後の死細胞率は、放射照射量が増加するにつれて上昇し、放射照射量10 J/cm2において、光感受性薬剤接触時間15分の場合に、他の接触時間と比較して死細胞率が有意に低くなり、放射照射量5 J/cm2において、光感受性薬剤接触時間180分の場合に、他の接触時間と比較して死細胞率が有意に高くなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、細胞外光増感反応による心筋細胞障害の基礎検討として1) in vitro実験系での酸素消費及び供給、2) 温度変化に伴う殺細胞効果変化、3) 即時的な不可逆電気伝導ブロックを実現するための光増感反応施行条件、4) 薬剤分布変化に伴う慢性期殺細胞効果変化、5) 心筋に対する光増感反応治療のモデル化を行うことにある。 本年度は2) 温度変化に伴う殺細胞効果変化3) 即時的な不可逆電気伝導ブロックを実現するための光増感反応施行条件、4) 薬剤分布変化に伴う慢性期殺細胞効果変化の検討について、昨年度に引き続き調査をさらに進め、成果を得た。得られた成果から臨床応用への拡張性について考察を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、1) in vitro実験系での酸素消費及び供給、5) 心筋に対する光増感反応治療のモデル化を推進する予定である。 細胞外光増感反応における酸素分圧は実験の周囲環境によって変化し、光増感反応の進行に影響を及ぼすと考えられる。実験系における酸素の消費と供給を明らかにすることで、定量的な細胞外光増感反応の障害量について検討可能にする。 これまでに細胞外光増感反応によって細胞壊死が発生する放射照射量および光感受性薬剤濃度条件を明らかにした。また、細胞壊死が発生するまでに要する時間の光感受性薬剤濃度および放射照度依存性を明らかにした。これらの知見からin silico計算モデルを構築し、細胞死発生の振る舞いを決定する要素について明らかにする。モデル計算によって網羅的な細胞壊死発生を求めることにより、異なる酸素環境や幅広い光照射条件における治療効果を予測可能となるため、臨床応用に最適な条件の検討を行う。
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