研究概要 |
本研究では、抗体医薬を用いた癌治療戦略に影響を与える「抗体の内在化現象」に注目し、物理化学的手法に基づき抗体の内在化を制御する抗体の物性、機能の解明を行う。研究モデルとして、膵臓癌や肺癌で大量発現する蛋白質「P-cadherin」と4種の抗P-cadherin抗体を用いる。当該年度においては、抗体の内在化効率を調べる上で重要な基礎となる以下の4つの項目を行った。 ①分子レベルにおけるP-cadherinの接着メカニズムの解析 : P-cadherinの構造変化と抗体の内在化現象の関係を調べることを目指し、P-cadherinがどのような構造変化を伴い細胞間接着を形成しているのか解析をした。各種P-cadherin変異体のX線結晶構造解析、dimer形成反応の熱力学的解析、速度論的解析を行うことで、P-cadherinは、X-dimerと呼ばれる中間構造を経て接着機能をもつss-dimerと呼ばれる安定dimerを形成することが明らかとなった。 ②P-cadherin変異体安定発現細胞の樹立 : 分子レベルで明らかとなったダイマー形成過程が、細胞の接着機能においても当てはまるか調べるために、P-cadherin変異体を発現する安定株の樹立を行った。Flp Inシステムを用いて、安定発現CHO細胞株を6種類樹立した。 ③細胞レベルにおけるP-cadherinの接着メカニズムの解析 : 樹立した安定発現株を用いて、接着機能を調べる手法の確立を行った。E-cadherin発現細胞の接着形成に関する論文を参考にし(Veerle Van Marck et al., Cancer Res, 2005, 65, 8774-8783)、文献同様に、野生型を発現する細胞株を用いて行った。Cadherinに関して一般的に言われている通り、P-cadherin発現細胞もカルシウム依存的に細胞同士が結合することがわかった。 ④抗P-cadherin抗体とP-cadherin発現細胞の相互作用解析 : 抗体とP-cadherin発現細胞の結合を解析する手法の確立を行った。抗体Aと野生型のP-cadherinを発現する細胞を用いて、Cell ELISA、免疫染色の条件検討を行った。両手法を組み合わせることで、内在化効率の定性的、定量的評価が可能となる。解析の結果、抗体AはEC_<50>=5nM程度と強力な結合を示すこと、細胞間に存在するP-cadherinを特異的に染色可能であることが明らかとなった。
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