研究課題/領域番号 |
13J04691
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
浦上 千藍紗 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ラマン分光学 / 時間分解分光 / 顕微分光 / カロテノイド / 光合成細菌 / 人工光合 |
研究概要 |
本研究では光合成初期過程におけるカロテノイドの振電相互作用と緩和過程のダイナミクスを解明することを目的としている。植物が独自に発達させた光捕集アンテナ系に含まれるカロテノイドは太陽光エネルギーを余すことなく享受するための色調を与える主要因となっている。このカロテノイドのダイナミクスを解明すれば光合成において非常に高効率でエネルギー伝達を行う植物の光捕集から光反応中心への伝達の仕組みを明らかにすることができる。 その方法としては時間分解顕微ラマン分光測定を用いる。時間分解ラマン分光法は短寿命分子種のラマンスペクトルを測定する実験手法である。ラマンスペクトルは分子構造に関する豊富な情報を含むので、時間分解ラマンスペクトルは光化学反応の反応機構を研究する強力な実験法となっている。手法としては分子の短寿命種を測定するのに有効なポンプープローブ分光法を用いる。レーザー技術の進歩によって、近年ではサブピコ秒領域までの波長領域まで波長可変パルス光を得ることが容易になっており、時間分解ラマン分光測定においても共鳴ラマン効果を得ることができる。本研究ではまず、培養した光合成細菌を用い、顕微測定の強みである微小領域を測定することによる位置と機能の関連付けを行ってダイナミクスを追う。続いて、異なる細菌から単離してきた光捕集アンテナを再構成し、人工的に制御された光合成膜を測定する。これらの試料を測定することによって人工光合成システムの開発に大きく貢献することができる。 この研究を実施するために既に使用していた共焦点顕微ラマン分光測定装置を改良して時間分解ラマン分光測定ができるようにする。まずはカロテノイドから溶液を作成し、その後光合成膜の測定に進めていく。光合成細菌の光合成膜の検出を顕微で行うことによって膜内におけるカロテノイドの位置(構造)と機能の関係を、振動分光学を用いて明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
時間分解顕微ラマン分光測定装置の構築が完了していないため。 研究奨励費のおかげで必要な物品の購入は行うことができたが、時間分解測定装置の構築は想定していたよりも困難で完了にはまだ時間を要する。
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今後の研究の推進方策 |
時間分解顕微ラマン分光測定装置の構築を完了させることを当面の目標とするが、申請者個人の力では知識面、技術面から困難な点が多く、経験者の助言、指導を必要であると考えられる。装置の構築にまだ時間を要するため、当初予定していた研究計画を達成できない可能性は考慮に入れる必要がある。申請者が行おうとしている光合成膜の測定を行うところまではできたとしても、励起光の強度が生物サンプルに対して強すぎる可能性があるので、その部分でもまた時間がかかることが予想される。これらの問題への対応策として、既に顕微ではないが生体試料の時間分解測定を行っている先行研究の論文を参考にすることはもちろん、本人と直接連絡を取って議論、研究室の見学に行くことも考えている。 また、別の対応策として、シミュレーションと実験の統合も考えている。吸収スペクトルとラマン散乱は密接に関係しているので、ラマンスペクトルのから吸収スペクトルをシミュレーションすることにより、カロテノイドの周辺環境を考察することができる。このシミュレーションについては現在既に進行中で、ある程度の結果も得られている。
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