研究概要 |
正の整数rに対し、点付きグラフに対するr基本群を定義し、その応用と基本的性質について調べた。またグラフに対してr近傍複体という単体的複体を定義し、その基本群がr基本群の偶数部分と呼ばれる部分群に同型になることを示した。特にr=1のときは、本研究で示す予定であった近傍複体の基本群と2基本群の偶数部分の同型に対応する。 二つのグラフの間のグラフ準同型の存在性・非存在性を示すということは、グラフ理論における基本的かつ重要な問題であるが、r基本群はその問題に応用することができる。実際、本研究で得られた定理をにより、KneserグラフK_{2k+1, k}の3基本群がZ/2Zになることを計算し、K_{2k+1, k}から5サイクルグラフC_5へのグラフ準同型が存在しないことを示せる。 またグラフT, Gから構成される単体的集合Sing (T, G)(特異複体と名づけた)を定義し、その基本的な性質について調べた。特にSing (T, G)の幾何学的実現はホム複体Hom (T, G)にホモトピー同値であることを示した。このことからHom (T, G)のホモロジー群が、位相空間の特異ホモロジー群と同様に、ある組合せ論的に得られるチェイン複体のホモロジー群に同型になることが得られ、ホム複体のホモロジー群に別の定式化を与えることができたという点で重要である。特にT=K_2のときはSing (K_2, G)はGの近傍複体にホモトピー同値になるため、近傍複体のホモロジー群が得られる。このことは研究計画において書いた位相空間の特異ホモロジー論の、グラフの場合の理論といえる。 この他に、stillと言われる性質を持つグラフG, Hにおいて、近傍複体が同型であることがK_2×GとK_2×Hがグラフとして同型であることを示し、応用として近傍複体が同型であるにも関わらずクロマティック数が違う例を構成した。さらにグラフ準同型G→Hで、箱複体に誘導される写像B (G)→B (H)がZ_2ホモトピー同値であるにも関わらず、GとHのクロマティック数が異なる例を構成した。これは近傍複体と箱複体の(Z_2-)ホモトピー不変量がクロクティック数と同値でないことを示す重要な例である。
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