研究実績の概要 |
近傍複体とはグラフに対し定義される単体複体であり, そのトポロジーがグラフの彩色数に密接に関係することは, LovaszのKneser予想解決以来, 広く認知されている. 箱複体はグラフに対して定義されるZ_2空間であり, その底空間は近傍複体にホモトピー同値である. 箱複体によってグラフの彩色数だけでなく広くグラフ準同型の存在問題にトポロジーを応用する枠組みが与えられた. 本年度の研究においては, 箱複体とグラフのクロネッカー二重被覆との関係を明らかにした. 具体的には孤立点を持たないグラフGとHのクロネッカー二重被覆が同型であることと, 箱複体が半順序集合として同型であることが同値であることを示した. このことから箱複体がZ_2半順序集合として同型であることと元のグラフが孤立点を除いて同型であることは同値であることが導かれる. 応用として, 箱複体が半順序集合として同型であるにも関わらず, 彩色数が異なる例を構成することができた. このことは箱複体のZ_2半順序集合としての構造を見れば, グラフの(孤立点を除いての)情報が完全に復元されることを意味する. 一方で, 箱複体がZ_2ホモトピー同値であっても, 彩色数の異なるグラフが存在することを証明した. これはグラフのある種の変形が, 箱複体のZ_2トポロジーを変えないことを考察することで得られる. 一つの変形は以前から知られていた「折り畳み」というものだが, この変形は彩色数を変えない. 一方で私が導入した変形は彩色数を変えることがある.
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