研究課題/領域番号 |
13J04711
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小早川 裕悟 金沢大学, 人間社会環境研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 中世史 / 貨幣史 / 地方史 / 通貨事情 / 出土銭貨 / 中近世移行期 |
研究概要 |
平成25年度の研究成果については、『地方史研究』第363号にて北陸の通貨事情を明らかにした。文献史料及び考古資料(出土銭貨)の融合という観点から北陸の通貨事情が京都よりも悪化していたため、多数の先行研究がある京都等の西日本とは異なり、北陸では悪銭に対する基準が甘く設定され、悪銭と精銭とを混用する状況であったことを示した。この研究成果は、これまで資料不足として研究対象にならなかった「地方」の通貨事情を明らかにしたことで、中世貨幣史の枠組みを広げるものであるといえる。 そして、上述の論文中において課題として挙げた16世紀を通じた流通銭の実態の把握を行うために、平成25年7月16日から7月18日にかけて、16世紀前半頃の埋蔵銭である北吉田埋蔵銭(石川県羽咋郡志賀町出土)の再調査を収蔵先の石川県立歴史博物館にて行った。この再調査により、16世紀の流通銭は、北宋銭が主体であるとする従来の見解に加え、銭貨を精銭と悪銭とに選別する撰銭禁令にて対象となっている西日本で忌避されていた明銭の永楽通寳に極端な偏りがみられるという他の出土銭貨では確認されない傾向が判明した。この点から、16世紀を通じて、京都で忌避されていた銭貨の種類が北陸へ流入し、流通銭として機能していたことが明らかになった。再調査結果については、『出土銭貨』第33号にて報告を行っている。 以上の様な通貨事情に関する研究だけでなく、石川県内における年度毎の出土銭貨の出土記録に関する集成を、遺跡発掘調査報告書を基に行った。この集成は、考古学分野での出土銭貨研究の基礎資料となる作業であり、出土地点・出土状況・銭種等をまとめたものである。平成25年度において集成した記録は、『出土銭貨』第32号及び第33号にて報告しており、出土銭貨研究の基礎分野にも貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した計画に基づき、国内資料調査、国外資料調査、出土銭貨再調査を行うことができた。また、それぞれの調査結果を論文としてまとめ、順次発表(現在、投稿中の論文もあり)しており、着実に研究成果を挙げることができていると判断できるため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、従来の先行研究では資料不足として研究対象になり得なかった地域の通貨事情を明らかし、中世貨幣史を再検討することを目的としている。これまで主体となっていた文献史料のみ及び考古資料のみを用いた研究ではなく、両者の観点を融合させる研究手法であるため、文献史料・考古資料をともに検討することとなる。今後の研究において求められることは、文献史料では捉えきれない、どのような通貨が実際に流通していたのかという流通銭の実態の解明であり、この点を明らかにするためには出土銭貨を精銭と偽銭を判別する再調査が必要となる。 そのため、今後についても平成25年度と同様に、地域毎の通貨事情に関する文献史料の収集と中世を時期とする出土銭貨の再調査を計画的に行うことを予定している。
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