平成26年度の研究成果については、『北陸史学』第63号にて、北陸地方における金・銀・銭の三貨の連関性を明らかにした。北陸では、西日本の主要都市とは異なり、16世紀末までは金と銭は併存していたが、1590年代に銀が登場したことにより、金と銭が担っていた貨幣機能を銀が一挙に吸収することとなったことを示した。 以上の様な通貨事情に関する研究だけでなく、石川県内における年度毎の出土銭貨の出土記録に関する集成を、遺跡発掘調査報告書を基に行った。この集成は、考古学分野での出土銭貨研究の基礎資料となる作業であり、出土地点・出土状況・銭種等をまとめたものである。本年度中において集成した記録は、『出土銭貨』第34号にて報告しており、出土銭貨研究の基礎分野にも貢献した。 また、上述の通貨事情と関連する中世の物価変動の実態についても触れた。特に、播磨国矢野荘における物価変動を対象とし、これまでの研究の中心であった米だけではなく、麦・大豆等の畠作物の物価変動についても述べた。その結果、畠作物は必ずしも米の物価とは連動しておらず、納入時期や収穫量、畠作物そのものの商品価値に影響を受けながら常に物価を変動させていた。畠作物の中でも麦に特徴的な物価変動が確認でき、麦が米に代わる救荒的意味合いが強い作物であったことが、物価変動の観点から改めて捉えることができた。また、物価変動を利用した経済行為が領主・代官・百姓の全ての階層で行われており、当時の人々や組織にとって財産を如何に確保することが重要であったかについても明らかとなった。なお、物価に関する研究成果については、査読誌へ投稿中である。 以上の研究成果については、平成25年度の研究成果とともに博士論文として執筆し、金沢大学へ提出した。提出後、中間審査・口頭諮問・最終審査を経て、平成27年3月23日に金沢大学より経済学の博士号が授与された。
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