研究課題/領域番号 |
13J04777
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹中 菜々 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞移植治療 / デュシェンヌ型筋ジストロフィー症 / Dystrophin陽性線維 / ウルリッヒ型筋ジストロフィー症 / 間葉系前駆細胞 / 6型コラーゲン / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
①DMDモデルマウスに対する細胞移植治療実験、及びリハビリテーション介入実験 デュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)に対する細胞移植治療については、すでに多くの研究結果が報告されている。しかし、細胞移植手技そのものについて最適化した報告はなく、また、DMDモデルマウスの骨格筋機能を正確に、かつ経時的に評価する方法もこれまで確立されていなかった。そのため、重度免疫不全DMDモデルマウス(DMD-null/NSG mouse)に対する移植方法の最適化実験を行い、さらに、その治療効果を組織学的解析のみならず運動機能面からも評価する方法の確立を目指した。 さらに、DMDモデルマウスに対する細胞移植治療の効果を促進するためのリハビリテーション介入の有効性についても検討する。 ②UCMDモデルマウスに対するiPS細胞由来MSC移植実験 間葉系前駆細胞(MSC)は、生体の様々な組織に存在していることで知られているが、骨格筋の間質にも血小板由来増殖因子受容体(PDGFRα)陽性のMSCが存在している。MSCが産生する6型コラーゲン(COL6)は、サテライト細胞の活性化や骨格筋再生の促進に働くとの報告があり、さらに、ヒトでは、COL6の欠損はウルリッヒ型筋ジストロフィー症(UCMD)等の筋疾患の原因であることもわかっている。平成26年度は、ヒトiPS細胞由来間葉系間質細胞(iMSC)が、生体骨格筋に存在するMSCと同等の性質を持つ可能性が高く、COL6を産生して細胞外へ分泌する能力も備えていることを明らかとした。そこで、重度免疫不全UCMDモデルマウス(COL6KO/NSG)に対する移植実験を行い、iMSCがUCMDに対する細胞移植治療法の細胞源として有用であるのか否かを明らかとすることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①DMDモデルマウスに対する細胞移植治療実験、及びリハビリテーション介入実験 平成27年度は、まず初めに移植方法の最適化を目指した。この実験では、ヒト不死化筋芽細胞株(Hu5/KD3)を使用した。Hu5/KD3は、不死化細胞であるため、性質を一定に保ったまま、無限に増やすことが可能であり、移植手技の最適化実験に適していた。今回は、種々の移植条件を様々変化させ(移植細胞数、移植時の懸濁溶液、移植回数、使用するシリンジ、移植時のマウスの週齢 等)、それぞれの条件下で移植した際の移植細胞の生着効率を比較し、最適な移植方法を確立することに成功した。次に、DMDモデルマウスの運動機能評価法の確立を目指し、DMDモデルマウスの筋収縮力を、経時的に、かつ、再現性高く測定する手技を確立させた。また、この評価方法で測定された筋力値は、組織学的解析で得られる結果と相関しており、移植細胞の生着数(Dystrophin陽性筋線維数)の増加に比例して、発揮される筋力も増加することも確認できた。 平成27年度後半からはリハビリテーション介入実験を開始した。細胞移植治療後に加えるリハビリテーションプログラムには、麻酔下での電気刺激による骨格筋等尺性収縮トレーニングを採用した。その結果、細胞移植治療後のDMDモデルマウスに筋収縮トレーニングを負荷すると、移植細胞の生着率が向上し、Dystrophin陽性線維数が約三倍増加することを明らかとした。 ②UCMDモデルマウスに対するiPS細胞由来MSC移植実験 平成27年度には、UCMDモデルマウスに対するiMSC移植実験を開始した。その結果、移植されたiMSCが、PDGFRαの発現を維持したまま、UCMDモデルマウスの骨格筋に生着していることが確認され、さらに、それらの細胞は、移植部位でCOL6を産生していることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
①DMDモデルマウスに対する細胞移植治療実験、及びリハビリテーション介入実験 平成27年度の実験では、トレーニングの負荷量、頻度、介入期間も廃用性筋萎縮モデルに対する先行研究と同じ1条件のみを試行し、非常に小さなサンプル数での予備実験のみしか実施できていないが、細胞移植治療後に筋収縮トレーニングを加えることで、移植細胞の生着効率が向上することが明らかとなっている。そのため、平成28年度以降には、サンプル数を増やし、上記実験結果の再現性を確認するとともに、トレーニングの負荷量、頻度、介入期間等の条件を幅広く試し、DMDに対する細胞移植治療効果を最大化するためのリハビリテーションプログラムの確立を目指し、さらに実験を進展させる。 ②UCMDモデルマウスに対するiPS細胞由来MSC移植実験 現在は、iMSC移植によりUCMDモデルマウスの病態が改善され得るか組織学的に解析を進めると共に、上記の骨格筋力測定システムを用いて運動機能の解析も進めている。また、それと同時に、COL6が完全に欠損しているUCMD患者の体細胞に由来するiPS細胞からもiMSCを新たに樹立し(U-iMSC)、iMSCと同様にUCMDモデルマウスへの移植実験を実施中である。iMSCとU-iMSC、両細胞の移植実験におけるそれぞれの病態改善効果を比較検証することで、iMSC移植による治療効果が、iMSCから産生されるCOL6によるものかどうかが明らかとなり、治療メカニズム解明の一助となると考えている。平成28年度には、これらの実験データを論文としてまとめ、投稿することを目指している。
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