本研究は、戦時中から戦後にかけてシンガポールおよび香港で活動した「文化人」のネットワークを見ることよって、戦時期から戦後にかけての文化活動の連続と断絶、「戦争の記憶」の創造・継承・忘却のあり方を浮き彫りにするものである。平成27年度は、主にこれまでの資料調査や分析に基づく研究発表を行った。特にシンガポールで収集した資料を中心的に取り上げた研究発表に努めた。国内では、20世紀メディア研究所第98回研究会において「従軍漫画家が描いた東南アジアの女性像」と題する発表、ならびにアジア教育史学会において「日本占領下シンガポールにおける文化政策」と題する発表を行った。国外では、2015 AAS-in-Asia Conferenceにおいて‘Double Dilemma in Japanese Cultural Policies in Its Empire: Japanese Intellectuals' Experiences in Wartime Singapore’と題する発表、ならびにInter-Asia Cultural Studies Society Conference 2015において‘Images of Southeast Asian Women from the Perspective of a Wartime Japanese Cartoonist’と題する発表を行った。さらに、これまでの研究成果のうち、戦時期のシンガポールを扱ったものは、博士学位申請論文「日本占領下シンガポールにおける文化政策」としてまとめ、一橋大学大学院言語社会研究科に提出した。同論文では、日本内地における戦時期の南方文化工作に関する構想、日本占領下シンガポールにおけるメディア環境、現地で提供された娯楽の諸相、現地で活動した日本人文化人の活動など、多岐にわたるトピックについて記述した。
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