研究課題
本研究の研究課題は、ビスマス系高温超伝導体の固有ジョセフソン接合列においてテラヘルツ発振が起こる位相同期メカニズムの解明と、この現象を利用した利便性の高い小型テラヘルツ光源の開発である。本年度は当初の計画どおり、二次元的な電極構造を有する光源素子の微細加工プロセスに着手し、自作した外部分流回路による素子特性の能動制御を実証した。研究代表者は素子のメサ(台地)構造の上部に取り付けた複数の電極から印加する電流を調節することで、光源内部の温度分布制御を試みた。さらに光源の温度分布を可視化するために、蛍光イメージング法を改良した温度分布イメージング装置を新たに構築した。以上の温度分布制御と温度分布計測の実験から、固有ジョセフソン接合列の位相同期には局所的な温度上昇(ホットスポット)が重要な役割を果たしていることを示し、熱流経路を最適化することで高出力発振が実現できる可能性を見出した。本成果をまとめた論文は現在アメリカ物理学会のPhysical Review誌に投稿中である。超伝導テラヘルツ光源の応用に関する研究としては、簡便な透過型イメージング装置の開発に筑波大学との共同研究として携わり、光源の応用可能性を発展させた。テラヘルツ断層イメージングの手法を新たに導入し、光源の実用化に向けた独創的なアプローチを行った。今年度得られた研究成果をまとめた論文は、世界的に権威あるいくつかの学術雑誌ですでに掲載済みである(共著3件)。国内で開催された研究学会では6件の口頭発表を行った。また、本研究成果は国際的にも高く評価され、中国とギリシャで開催された超伝導に関する国際学会で2件の招待講演を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は交付申請書に記載した研究計画に沿って研究を実施することができ、さらに期待されていた以上の成果、具体的には超伝導テラヘルツ光源素子の歩留まり向上と最大20%の高出力化を達成することができた。研究を進めてゆく過程で素子の温度分布が位相同期メカニズムに重要であるという着想を得て、温度分布イメージング装置を開発したことも当初の計画以上の進展である。この装置によりテラヘルツ発振と温度分布のその場観察が可能となり、発振機構解明や高出カテラヘルツ発振の実現に向けて大きく前進した。
採用2年目の展開としてはまず、1年目の後半で得られた成果を早急に論文としてまとめ、権威ある学術雑誌での掲載をめざす。その後、本研究課題の遂行のために2014年4月から9月までの期間、ドイツのテュービンゲン大学固体物理学研究所Kleiner教授グループにおいて、長期の研究滞在を行う。ヨーロッパでも最先端の研究施設として知られるこの機関で新しい実験手法を学び、日本に戻った後の研究へ継続的にフィードバックできるよう努める。また、第一線で活躍する研究者たちと議論を重ねることで、さまざまな角度から本研究を見直すと同時に、英語でのコミュニケーションを通じて研究者としての資質を高める。今後の課題としては、実用化に向けた超伝導テラヘルツ光源の高性能化がもっとも重要であると考える。採用1年目と2年目で得られた知見を実際の光源素子に応用し、その性能を最適化することで、採用3年目において本研究の課題である光源の実用化が達成できると期待している。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Applied Physics Letters
巻: 104 ページ: 082603-(1-4)
10.1063/1.4866898
巻: 104 ページ: 022601-(1-5)
10.1063/1.4861602
Journal of Infrared, Millimeter and Terahertz Waves
巻: 35 ページ: 131-146
10.1007/s10762-013-0027-y
http://sk.kuee.kyoto-u.ac.jp/