研究課題/領域番号 |
13J04811
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻本 学 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導 / 銅酸化物高温超伝導体 / テラヘルツ / 連続光源 |
研究実績の概要 |
特別研究員の研究課題は、高温超伝導体の固有ジョセフソン接合列でテラヘルツ発振が起こる位相同期メカニズムの解明と、この現象を利用した小型連続テラヘルツ光源の開発である。テラヘルツ帯の電磁波を使ったテラヘルツ技術は、医療診断、セキュリティー検査、タンパク質の構造解析、高速無線通信、宇宙観測など、幅広い分野への応用が期待されている。採用2年度目は次の3つの研究テーマに着手した。(1)高出力化に向けたテラヘルツ光源内部の温度分布制御、(2)周波数特性向上をめざした化学置換効果の検証、および(3)走査型レーザー顕微鏡を使った発振の微細構造観測と電磁場解析、である。 本年度は極低温環境でも有効な温度イメージング装置を構築し、微小サイズの光源表面における特徴的な温度分布の可視化に成功した。そして温度分布とテラヘルツ発振強度の比較ができる特殊な構造を有した光源を用いて実験を行い、過剰な温度上昇を抑制することでテラヘルツ発振の高出力化を実証した。得られた結果を数値シミュレーション解析することで、高出力テラヘルツ光源の実現につながる効率的な冷却方法を提案した。 研究課題を遂行するにあたり、2014年4月から約5ヶ月間、特別研究員SPDの海外渡航として独テュービンゲン大学の固体物理学研究所Kleiner教授研究グループで研究滞在を行った。滞在先グループの教授、博士研究員、大学院生らと国際交流し共同研究に励んだ。最先端の研究環境で活躍する世界中の研究者たちと日々議論を重ね、何事にも代えがたい貴重な経験を得ることができた。本研究課題の発展可能性について考える良い機会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
温度分布イメージング装置を早期に完成させ、得られた実験結果について執筆した論文をアメリカ物理学会Physical Review Applied誌に2014年内に掲載できたことは当初の計画以上の進展である。実験を進めながら同時に国内学会では2件の口頭発表(うち1件は招待講演)と1件のポスター発表を行い、研究成果が評価されポスター最優秀賞を受賞している。2014年4月からの独テュービンゲン大学での研究滞在では、海外での慣れない生活に加え実験、現地研究者との議論、論文の執筆という多忙な日々を過ごし、十分な経験を積むことができた。研究成果は日刊工業新聞で記事として紹介されたことで広く周知することができた。京都大学ホームページの研究成果欄に掲載していただけたことも当初予想していた以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として以下の二つを考えている。すなわち、①固有ジョセフソン接合列の位相同期機構解明に向けた微細発振構造についての詳しい検証と物理機構の提案、②超伝導テラヘルツ光源の特性向上をめざした材料学的アプローチ、である。①については、本年度の後半で得られた非常に示唆に富む実験結果を詳しく追求し、数値シミュレーションなどを駆使して実験結果を説明する新しい物理モデルを提案したいと考えている。②については、超伝導テラヘルツ光源の基本材料である銅酸化物高温超伝導の単結晶を材料としての観点から見直し、化学ドープ効果の調査や同じ物質群の異なる材料でテラヘルツ発振が起こるのか検証したい。今後得られた成果は国内および国際学会で公表し、世界中の同分野の研究者と議論を重ねたい。またインパクトの高い学術雑誌での論文掲載をめざし、実験を進めながら同時に執筆活動に取り組みたい。
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備考 |
(1)京都大学ホームページ 研究成果「高温超伝導体を用いた新しいテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功 -小型コヒーレントテラヘルツ光源の実現につながる重要な手がかり-」
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