本年度は合成ルートの実現可能性を確かめるべく、まずは代表的なエリスリナアルカロイドであるerythralineのラセミ体全合成を行った。市販品からそれぞれ4工程の変換を行うことで合成したヨウ化アリールとボロン酸エステルを、鈴木-宮浦カップリング反応の条件に付すことで結合させ、ビアリール化合物へと導いた。続いて、数工程の変換を行うことで得られたアミノ酸の分子内縮合反応を行うことで、9員環ラクタムを構築した。フェノール性水酸基の保護基を除去することで得られたフェノールに対し、塩基存在下、一重項酸素を作用させたところ、鍵反応であるフェノールの酸化と引き続く渡環マイケル付加反応が一挙に進行し、天然物の主骨格を構築することができた。こうして得られた鍵反応成績体の脱水反応を行うことで文献既知化合物へと導き、さらに数段階の変換を行うことで、eryhralineのラセミ体全合成を達成することに成功した。 本合成ルートは、エリスリナアルカロイドに共通する主骨格を一挙に構築している点および、市販の原料から14工程と短段階にて天然物が合成できている点で効率的な合成経路であるといえる。また、鍵反応となるフェノールの酸化において、一重項酸素を利用している点で独創的である。さらに、不斉全合成においても鈴木-宮浦カップリング反応、アミノ酸の分子内縮合反応、そしてフェノールの酸化と渡環マイケル付加反応を用いるため、本合成ルートで得られた知見をそのまま利用することができる。
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