研究課題/領域番号 |
13J04819
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
武方 宏樹 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 概潮汐リズム / マングローブスズ / 概日時計遺伝子 / RNA干渉 / 脳間部 |
研究概要 |
マングローブスズApteronemobius asahinaiは、マングローブ林に生息する小形のコオロギで、その歩行活動には潮の干満に一致するおよそ12.4時間周期の明瞭な概潮汐リズムを示す。様々な生物で概日リズムの研究が進み、概日リズムを生み出す概日時計の生理機構が明らかになりつつあるのに対し、概潮汐リズムの生理機構はほとんど分かっていない。マングローブスズでは、概潮汐リズムが約12.4時間周期の生物時計によって生み出されること、概日時計遺伝子period・Ciockの発現抑制や概日時計を司る神経領域である視葉の除去を行った場合でも概潮汐リズムが維持されることが明らかになっている。このことから、マングローブスズの概潮汐リズムは概日時計とは異なる生理機構の概潮汐時計によって生み出されると考えられるが、その実体については未だ不明である。本年度は、概潮汐リズムの形成にかかわる遺伝子・神経領域を明らかにすることを目的とし、period・Clock以外の概日時計遺伝子の発現抑制や脳の微小破壊の概潮汐リズムへの影響を観察した。 概日時計遺伝子のクローニングを行った結果、timelessとcryptochrome2の部分配列が得られた。RNA干渉法を用いてこれらの遺伝子の発現抑制を行った結果、発現抑制後も概潮汐リズムが維持された。このことから、timelessとcrypotochrome2は本種の概潮汐リズムに重要ではないと考えられる。 ヨーロッパイエコオロギAcheta domesticaにおいて概日時計の存在が示されている、脳間部と呼ばれる脳領域の神経分泌細胞を除去し、歩行活動リズムへの影響を観察した。その結果、概潮汐リズムを示す個体の割合が減少する傾向が見られた。活動記録後、脳間部の神経内分泌細胞と概潮汐リズムの関連性を調べるために、脳間部を除去した個体の脳をパラアルデヒドフクシン染色し、神経分泌細胞の有無を観察した。その結果、神経内分泌細胞の有無と概潮汐リズムの有無に関連性はみられなかった。このことから、脳間部の神経内分泌細胞以外に概潮汐リズムの維持に重要な神経領域が存在すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では昨年度中に、神経の電気活動記録の手法を確立する予定であったが、まだ確立には至っていない。しかしながら、その他の計画は順調に遂行できており、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
脳間部が概潮汐リズムにおいて重要である可能性が示されたため、当初の計画通り、電気生理学的手法を用いて脳間部の時計機能の有無を検証する。そのために、神経の電気活動記録の手法を確立する。脳葉から食道下神経節へ伸びる神経束(下行性神経束)を含む神経領域の電気活動から概潮汐リズムが検出できるようになった後、脳間部を除去した場合の電気活動を記録する事で、脳間部の時計機能の有無について検証する。
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