研究課題/領域番号 |
13J04851
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
今井 大地 千葉大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 窒化物半導体 / 非輻射性電子・正孔再結合 / フォノン / 電子-格子相互用 |
研究概要 |
前年度は、電子-格子相互作用が強い特徴をもち(従来のIII-V族半導体の3-5倍)、電子-正孔(キャリア)再結合過程に対する熱(フォノン)の影響が大きいと考えられる窒化物半導体の主要2元化合物である窒化インジウム(InN)、窒化ガリウム(GaN)薄膜試料を用いて、キャリア再結合過程に対するフォノン輸送特性の影響について特に注目して解析を行った。 InN薄膜では非輻射性電子・正孔再結合(NR)過程における少数キャリア輸送、及びフォノン輸送過程の統合的実験解析を行った。試料のドナー性欠陥密度増大に伴いフォトルミネッセンス(PL)発光強度は減少する一方で、ラマン散乱測定により縦音響フォノン(LA)散乱速度は増大していることを実験的に観測した。InNのLAフォノンは1-25meV程度のエネルギーを持つ。この値は以前に我々が見積もったlnNのNRに必要な活性化エネルギー(電子捕獲 : 9-15meV、正孔捕獲 : 30-60meV)に近く、NR過程を引き起こすトリガー(活性化エネルギー供給源)としての有力な候補である。キャリア移動度は、ドナー性欠陥密度増大に伴い減少する傾向にある。よってこの場合、発光強度減少は欠陥密度増大とキャリアのフォノン吸収確率増大により引き起こされていると考えられる。つまり本結果は発光強度の減少を従来のように欠陥密度だけで議論することが出来ないこと、欠陥密度増大に伴うキャリアのフォノン吸収による熱活性化率増大の影響を考慮した解析を行う必要性を示す。よってフォノンダイナミクス制御が可能となれば、発光効率改善に対し有効な手段となると考えられる。GaNの励起子発光過程では、1LO, 2LOフォノンレプリカ発光強度の時間変化から、励起子発光過程に対する非熱平衡フォノン場の影響を観測し、発光過程に対する非熱平衡フォノンの影響を考慮する必要性と、その解析の可能性を示した。PD資格変更後はデバイス構造へ研究を展開し、光デバイス動作効率に対するキャリア、フォノンダイナミクスの解析と、その制御の可能性について追及する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、窒化インジウム(InN)薄膜の解析の後に、窒化ガリウム(GaN)系量子井戸構造による光電流と発光の同時実時間計測を行う予定であった。しかしInNにおいて非輻射再結合を引き起こす活性化エネルギー源となる音響フォノンを観測できたため、InNの解析を延長して行った。また電流測定のための電極を形成する装置の構築が間に合わなかったため、電気的評価を行うことが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究をこれまでの単層膜を用いた解析から、実際のデバイス構造へと拡張させるため、研究機関を移動した。特に、今後解析に取り入れるInN一分子層/GaNm分子層(m>1)短周期超格子(SPS)構造は電子、格子エネルギーバンドの折り返し効果による特異なキャリア・フォノン物性が期待され、本構造の導入によるキャリア、フォノンダイナミクス制御の有効性を検討する。実験に関しては、有機金属気相成長(MOCVD)法、または分子線エピタキシー(MBE)法による結晶成長及びデバイス化行程による評価試料の作製から行う。電気的、光学的評価を行う装置環境も整っている。
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