半導体発光素子の非発光性電子・正孔再結合や量子井戸型太陽電池の光電流取り出し過程など、光半導体の素子動作効率は電子系とフォノン系の相互作用に大きく影響される。本研究の目的はそれら電子、フォノン系の輸送過程や相互作用を制御することで、素子動作効率向上を図る新たな素子構造の提案、検証である。 前年度まで単層膜での解析が中心であったが、最終年度は素子応用へ向けた展開を加速させることに重点をおき所属機関を変更した。また電子・フォノン系バンドエネルギーを制御する新たな構造として、1分子層(ML)-InN/n ML-GaN短周期超格子(SPS)(n:整数)に着目した。本構造はGaN層の薄膜化による隣接1ML-InN層間でのエネルギーバンドの繋がりにより、混晶的に振る舞うことが予測されている。理論的には同等In組成の3元InGaN混晶よりも小さなバンドエネルギーが報告されているが未だ実験的報告はない。そこでまずは、SPSによる混晶的バンド制御の実証により、電子・フォノン輸送制御構造応用への有効性の検証を行い、次に太陽電池構造作製による素子応用へ向けた検証を行った。 GaNバリア層厚の異なる1ML-InN/n-ML GaN SPS (n=40-4 ML)において、フォトルミネッセンス(PL)、PL励起測定(PLE)、吸収測定によりバンド構造を調査した。GaN層厚が7 ML以上では、SPSのバンドは非結合量子井戸的であったが、4 MLではこれよりも低エネルギー側に連続的なバンドの形成が観測され、混晶的振る舞いを実験的に証明した。本結果は、GaN層厚制御だけでキャリア輸送制御構造が設計可能であることを示す。SPS(n=4ML)を光吸収層とした太陽電池構造では、スペクトル応答測定により擬似混晶による光応答が観測され、2V以上の良好な解放電圧を示した。これは、本構造がデバイスグレードの素子作製に十分耐え得ることを示す。今後、フォノンバンドについて解析を進めれば、電子・フォノン輸送制御構造応用へ向けた更なる進展が望める。
|