研究課題/領域番号 |
13J04881
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉尾 一 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 認識論 / 弱値 / 弱測定 / 量子解釈 |
研究概要 |
平成25年度は研究において大きな成果を上げることができた。物理学では系という概念が非常に曖昧なまま用いられている。例えば、量子力学において、「系の状態」という言葉を用いて現象が説明されていたかと思えば、突然、「電子の状態」という言葉に置き換わり説明が続けられることが多々ある。系の状態とは何か。それは、私たちから独立した世界の側に存在するものなのか、あるいは、私たちと物理的対象との関係において定義されるものなのか。このような問いについて、物理学は答えていない。 そこで、衆子力学における新たな測定法として注目を集めている弱測定を踏まえ、物理学における系の状態概念をより認識論的に捉えなおし、物理学における系概念を測定の文脈にまで拡張した。つまり、系は私たちが定める理論を適用する範囲であり、物理的対象と私たちの関係についての記述を与えるの概念が状態であると考えたのである。この解釈が妥当であるか否か考察するために、弱測定の結果(弱値)の解釈を試みた。弱値の物理的な意味について、物理学者の間でも議論が行なわれている。系の状態を認識論的に捉え直すことによって、弱値を認識論的値と解釈することを提案した。この新たな量子解釈は国内の学会において多くの科学哲学者から指示を得ることができた。また、物理学者たちとも議論し、この新たな量子解釈に対して一定の支持を得ることができた。 以上のことは、日本学術振興会に提出した研究課題に合致した研究内容であり、研究が計画通りに、かつ具体的に進展したと考えてよいだろう。本成果は、論文としてまとめられ、慶應義塾大学出版会から『入門科学哲学 : 論文とディスカッション』(共著)の形で書籍化されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究を三本の論文にまとめ、研究発表も三つ行っている。それぞれが専門家によって評価されていることから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として考える必要があるのは、私たちがどのようにして物理量概念を形成しているのかという問題である。これは、私たちがどのような物理的対象を実在とみなしているのかということに直結する問題となる。私たちは、物理的対象を時間と空間の中で認識する。したがって、私たちが認識する時空構造がこの問題に関係していることが推察される。そこで、時空の絶対説と関係説のそれぞれの立場に依拠すると、どのような物理量概念が可能となるのかについて検討する必要がある。
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