2014年度、DC2からPDへの資格変更に合わせて自然科学研究機構分子科学研究所に異動した。その分子科学研究所に来所した科学哲学者ルース・カストナー氏に、物理量は物理的実在の要素ではなく、現象を捉え、数学的に記述するための概念装置であるという認識論的見方(以下、物理量の認識論的解釈)について説明した。カストナー氏は、研究の方針に関心を示してくれた。 さらに、マレーシアで開催された第4回「東アジア・東南アジア科学哲学国際会議」において、物理量の認識論的解釈について研究発表した。その際、ソウル大学の科学哲学者リー・ジョンウン教授から、カント的観点にもとづく量子解釈の可能性の一つとして高く評価された。リー教授もまた、量子力学の認識論的解釈を目指しており、物理理論を認識論的に解釈することが、自然であるという共通の意見に達した。 また、総合研究大学院大学で行われた研究会『弱値の実在性をめぐって』で研究発表を行ったが、デカルト流の主観と客観にもとづく世界の分節の仕方が量子力学にはそぐわないという指摘があった。そして、物理学にとっては、実在は括弧付きの“実在”でよいという意見が交わされ、量子力学を認識論的に解釈するヒントを得ることができた。 しかし、量子力学を認識論的に解釈するということを主張するためには、存在論的解釈の特徴についても理解しなければならない。そこで、存在論的解釈を主張するエドワード・ホール教授が所属するハーバード大学哲学科に訪問研究員として滞在した。ホール教授は、量子状態を物理的実在と考えていた。しかし、系を世界の部分として選択するという行為が私たちに依存することを説明し、さらに弱値の議論に話が進むと、認識論的解釈に関心を示してはくれた。しかし、干渉効果についての解釈をめぐり、認識論的解釈は受け入れられなかった。今後も、ホール教授と議論を重ねる予定である。
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