研究課題/領域番号 |
13J04930
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
村上 慎之介 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 温泉 / 飲泉 / 細菌叢解析 / メタボローム解析 / 代謝物 / 健康 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
本研究では温泉が人体へ与える影響(いわゆる「効能」)を科学的に解明することを目的として実施したものである。温泉水を飲用する「飲泉」は、日本のみならずヨーロッパでも盛んに行われており、中でも炭酸水素塩や硫黄を含む温泉水の飲用は糖尿病の予防・改善効果が報告されている。しかし、これらの効果がもたらされるメカニズムは解明されていないことから、本研究ではヒトおよびマウスを用いた試験を行い、飲泉が生体に与える影響を分子レベルで明らかにすることを目指した。24名の健常者に水道水と温泉水(炭酸水素塩泉)を1週間ずつ交互に2回(計4週間)飲用する試験を行い、飲泉がもたらす生体内変動の時系列解析を行った。その結果、血糖状態を示すマーカーの1種である血中グリコアルブミン値が温泉水飲用後に有意に減少していた。そこで、同時に採取した被験者の血液中の代謝物質動態および糞便中細菌叢を解析することで、飲泉効果の分子機構を探索した(尿および糞便も採取済みであるが、代謝物質動態解析は平成27年度に実施する)。その結果、21種の血中代謝物質が温泉水飲用後に有意な変動を示した。また、各被験者において腸内細菌叢の構造は本試験期間を通して大きな変動はなかった。一方で、16S rRNA遺伝子配列に基づき、同サンプルからメタゲノム解析を行う際に得られると考えられる結果を推定するPICRUStを用いた解析では、31種のパスウェイに属する遺伝子の存在量が有意に変動しており、飲泉によって腸内細菌の機能が変化した可能性が示唆された。次年度に糞便中の代謝物質動態を解析することによって、詳細を明らかにしていきたいと考えている。また、飲泉による糖尿病の発症予防または抑制効果を検証するため、マウスを用いた試験も実施中であり、平成27年度に詳細な分析を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度はボランティアを募ってヒト試験を実施することを目指していたが、予定通り24名のボランティアの協力を得て飲泉試験を実施することができた。本試験において得られたサンプルを用いて血中代謝物質動態解析および糞便中細菌叢解析を実施することができた。また、マウスを用いた試験も予定していたが、こちらについても予定通り開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト試験については、今後尿中および糞便中代謝物質動態解析を行い、既に得られている血中代謝物質動態解析および糞便中細菌叢解析の結果と統合することで飲泉によって生体にもたらされた影響を分子レベルで明らかにしていく。また、マウスを用いた試験も実施中であるため、本試験では各臓器における遺伝子発現等も含め、より詳細に飲泉の影響を明らかにしていきたいと考えている。平成27年度中に成果をまとめ、国際学術誌に論文を投稿することを目指す。
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