研究課題/領域番号 |
13J04961
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森屋 由紀 東北大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 中枢刺激薬(覚せい剤) / セロトニン1B(5-HT1B)受容体 / 行動感作形成 / 薬物依存 / メタンフェタミン(METH) / 脳内微小透析法 / ドーパミン / セロトニン |
研究概要 |
今年度は覚せい剤等による薬物依存治療を難しくする行動感作形成におけるセロトニン神経伝達系、特にセロトニン1B (5-HT1B)受容体の役割を詳細に解明することを目的に、メタンフェタミン(METH)急性投与時の5-HT1B受容体欠損マウスにおける細胞外ドーパミン(DA)、セロトニン(5-HT)量の変化を脳内微小透析法を用いて解析した。5-HT1B受容体ヘテロ欠損マウスにおいて、行動感作形成に関与すると考えられている背側線条体ではMETHlmg/kg, 3mg/kg投与の両方で細胞外セロトニン量が有意に増加し、5-HT1B受容体を介するセロトニン神経伝達が行動感作形成を抑制するよう機能している可能性が考えられた。報酬効果に関与する側坐核では、野生型マウスに比べ5-HT1B受容体欠損マウスのドーパミン基礎放出量は有意に高値を示した。また、5-HT1B受容体ホモ欠損マウスの背側線条体において、METH3mg/kg投与時、他の遺伝子型に比べ有意に高い細胞外ドーパミン量を呈した。5-HT1B受容体ホモ欠損マウスの側坐核、線条体で細胞外ドーパミン量が高いことが行動感作形成の促進に寄与している可能性を示唆している。5-HT1B受容体ヘテロ欠損マウスは背側線条体においてMETHlmg/kg, 3mg/kg投与の両方で細胞外セロトニン量が高い傾向にあり、側坐核でもMETHlmg/kg投与時に細胞外セロトニン量が有意に高く、これらは行動感作形成を抑制しているよう機能している可能性がある。今回の実験結果より、METHによる行動感作形成には、5-HT1B受容体を介するセロトニン神経伝達と細胞外ドーパミン量、セロトニン量のバランスが重要な役割を担っていると考えられる。このことは、行動感作形成や覚せい剤依存症の病態解明につながると同時にMETHを含む中枢刺激薬(覚せい剤)の反復投与、あるいは精神病の治療に5-HT1B受容体を介してのモノアミン系の制御が役立つ可能性を示している。 以上の成果については第11回世界生物学的精神医学会国際会議(WFSBP)でポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度期間中に得られた研究成果については、総説、学会での発表を行うことができ、目標の達成度は期待以上の成果をあげている。また、当初想定していた以上に興味深い結果が得られており、今後の発展が期待できる。順調に進捗し、全体的に妥当な成果をあげているものの、部分的に不十分なところもあるので、取得したデータの積み上げができるようにまとめ、次年度は外部発表や国際学会発表に対して積極的に実施し成果普及に取り組みたい。今後、本研究に関する研究会、シンポジウム、論文発表で国際的な評価を得ることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き脳内微小透析法による側坐核でのデータ収集と神経活性化の指標となるc・Fosタンパク発現の増減を確認し、依存性薬物の効果で重要な神経回路の検討を行う。 さらに、現在、アルコール依存に重要な役割を持つセロトニン神経系とオピオイド受容体に注目し、ストレスに対するアルコール摂取量の影響を検討している。アルコールは嗜好性飲料として親しまれているが、長期にわたる大量摂取によりアルコール依存症を引き起こし、中枢神経の可塑的変化を伴った精神依存が問題となっている。一方、モルヒネなどの鎮痛薬は多くの痛みに対して有効的であると共に、オピオイド鎮痛薬は強力な鎮静作用のみならず、強力な精神依存も引き起こす。断酒中のアルコール依存患者において腹側線条体のセロトニン受容体1B受容体(5-HT1B)の結合能が上昇する(Hu et al, 2009)など、アルコール依存と5-HT1B受容体の関与が示唆されている。そこで、アルコールによる報酬、耐性、離脱、に関与しているμオピオイド受容体欠損マウスを用いて、アルコール慢性処置による報酬効果および関連する細胞内情報伝達系の変化について検討を行う予定である。
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