研究実績の概要 |
本研究は「等質凸領域とクランの代数構造の研究」であり、特に等質錐とクランの表現から得られる等質錐についての研究を行った.ここでクランとは等質凸領域と同型を除いて1対1に対応する、非可換かつ非結合的な代数である。昨年度は等質錐をその正値集合として特徴付ける既約多項式(基本相対不変式)の明示的公式を得た。この基本相対不変式は与えられた等質錐の階数個だけ存在し、それらの指数を並べた行列を指数行列と呼ぶ。前述した基本相対不変式の明示的公式は、この指数行列を具体的に計算するアルゴリズムを与えることにより得られた。これより、指数行列は等質錐を研究する上で基本的なものであることが予想される。従って本年度はこの指数行列に焦点を当てた。
今年度の研究成果について述べる.等質錐とその双対錐それぞれの指数行列の逆行列の和を考え、その行列がA型のCartan行列であるとき、またそのときに限り既約な対称錐となることを示した。対称錐はA型のルート系を持つ簡約実Lie群から得られるRiemann対称空間であり、指数行列の逆行列の和としてそのCartan行列が現れたことは極めて興味深い。さらに同論文において、Ishi--Nomura, Math. Z., (2008), 697--711の結果を、一般の等質錐上の管状領域上へ拡張した。それには指数行列が本質的に関わってきており、指数行列が等質錐を研究する上で基本的であるという予想を裏付けるものとなっている。さらに、この結果を用いた既約対称錐の特徴付けも得られた。この成果はCharacterizations of symmetric cones by means of the basic relative invariantsとして現在投稿中である.また等質錐と複素解析曲面のKlein特異点との関係も示唆しており,興味深い結果となっている.
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