研究概要 |
本研究は, 乳牛の子宮内膜炎における卵巣機能障害のメカニズムを解明することを目的とした。H25年度においては, 子宮内膜炎罹患牛の感染細菌から放出される内毒素であるリポポリサッカライド(LPS)が卵胞構成細胞および卵子に与える影響を解析するために, 以下の2つの実験を行った。 【実験1】食肉処理場で採取したウシ子宮より組織切片を作製し, 子宮内膜への炎症細胞の浸潤を調べた。また子宮に付随する卵巣を採取して卵胞液中のLPS濃度を測定するとともに, 卵胞液中のステロイドホルモン濃度や卵胞構成細胞におけるステロイドホルモン産生関連酵素の遺伝子発現を解析した。その結果, 卵胞液中に高い濃度のLPSが存在する卵胞では, 卵胞を構成する卵胞膜細胞および顆粒細胞でのステロイドホルモン産生が減少していることが明らかとなった。一方, 卵胞液中のLPS濃度および卵胞でのステロイドホルモン産生と, 子宮内膜への炎症細胞の浸潤数に関連性は見られなかった。以上より, 子宮の炎症度合に関係なくLPSが卵胞液中に存在し, 卵胞構成細胞のステロイドホルモン産生を阻害していることが示された。 【実験2】LPSが生殖細胞である卵子に与える影響を調べるために, 食肉処理場由来の卵巣より卵丘細胞―卵母細胞複合体を吸引し, LPSを含む培地で体外成熟培養を行った。その結果, LPSは卵子の減数分裂を阻害し, M2期へと進行する卵子の割合を減少させた(核成熟の阻害)。また, 卵子の細胞質に存在する主要な細胞小器官であるミトコンドリアへの影響を解析したところ, LPS処理によるミトコンドリアのコピー数の変化は見られなかった。一方で, LPSはミトコンドリアの膜電位差を低下させ, さらに成熟に伴うミトコンドリアの細胞質への拡散を阻害する可能性が示された(細胞質成熟の阻害)。以上のことから, LPSは卵子の核成熟および細胞質成熟を阻害することで, 受精およびその後の胚発生に影響を与える可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により, 子宮に炎症が見られるウシの卵胞液中にLPSが存在することが明らかとなったが, 子宮の炎症により生じたLPSがどのような経路によって卵胞に到達したのかについては不明である。そこでH26年度は, 生体へのLPS投与試験により, 生体内でのLPSの時間的・空間的移行について詳細に調べていく予定である。生体へのLPS投与に際しては, 費用や手技の簡便性, および動物愛護の観点から, ウシではなくマウスを用いる。また, 卵子の成熟過程におけるLPSの影響についてさらに詳細に解析するために, LPS存在下で成熟させた卵子を用いて体外受精および体外発生培養を行い, 受精能・胚発生能についての検討を行っていく。以上2つの実験を遂行するために, マウスの生体試料解析の効率化およびウシ卵子の体外受精技術の向上に努めていく。
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