H26年度は,子宮内膜炎罹患牛の感染細菌から放出される内毒素であるリポポリサッカライド(LPS)が卵母細胞の成熟過程および胚発生能に及ぼす影響を解析するために,以下の2つの実験を行った。
【実験1】H25年度より継続していた卵母細胞の成熟過程に及ぼすLPSの影響についてさらに詳細に検証するために,H26年度は成熟培養に供する卵母細胞の数を増やすとともに,卵胞液中のLPS濃度と同様のレベルのLPSを添加し,より生理的な状態に近い条件での解析を行った。食肉処理場で採取したウシ卵巣から卵丘細胞-卵母細胞複合体を吸引採取し,LPSを添加した培地を用いて23時間体外成熟培養を行った。その結果、LPSはMII期に進行する卵母細胞の数を減少させた(核成熟の阻害)。また,LPSはミトコンドリアのコピー数には影響しなかったが,ミトコンドリアが細胞質全体に拡散している卵母細胞の割合を減少させ,ミトコンドリアの相対膜電位活性を低下させた(細胞質成熟の阻害)。 【実験2】LPSによる核成熟および細胞質成熟の阻害作用が受精や胚発生に及ぼす影響について明らかにするために,LPS 存在下で成熟させた卵母細胞を体外受精に供し,LPSを含まない発生培地に受精卵を移して8日間培養した。その結果,LPSは受精卵の卵割率には影響を及ぼさなかったが,胚盤胞期胚への発生率を低下させた。また,LPS存在下で成熟した卵母細胞より発生した胚盤胞の栄養膜細胞の細胞数は減少した。
LPSは卵母細胞の成熟機構を阻害することにより,胚発生能を低下させることが明らかになった。また,胚盤胞を構成する栄養膜細胞の細胞数が減少したことで胚の質が低下し,着床が起こりにくくなる可能性が考えられた。以上のことから,卵胞液中に存在するLPSによる卵母細胞の成熟機構阻害が,子宮内膜炎における卵巣機能障害の一因となっている可能性が考えられた。
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