研究概要 |
ビーム推進機は飛行安定性に問題があり過去の飛行実験では高度70mしか到達出来ていない. そこで研究代表者は世界で始めて「レーザー入射動的制御法」を提案し, 動的制御により安定飛行を維持してkmオーダーの高高度飛行が達成可能となる事を数値実験により示した. また, 動的制御時に投入レーザーエネルギーを増大させる事により超音速安定飛行が達成可能であるという事を示した. さらに動的制御飛行シミュレータに風, ビーム入射誤差, 動的制御時間遅れを外乱として組み込み, 外乱に対する安定飛行のロバスト性を確認した. 40m/sの風, 標準偏差1cmのレーザー入射誤差, 15m sの時間遅れが存在したとしても安定飛行は可能であるという事を示し, 動的制御装置の設計要求を明確化した. さらに飛行実験に向け, 実験室における縮小飛行実験と実機スケール実験とを繋ぐスケール則を解析的に構築した. 解析的スケール則は流体計算により確かめられ, 系のサイズを変化させてもシングルパルスに対しては力学的等価性が維持出来る事が示された. また, ビーム推進機は低圧下で推進性能が低下するという問題点があったが, 外部磁場印可により推進性能が改善される事を世界で始めて示した. 放電プラズマを粒子法でモデル化し電磁波伝搬を数値的に解く事でプラズマ-電磁波間の干渉を数値的に再現したが, 得られた放電形状は実験結果と良い一致を示している事から, 本計算コードは妥当であると言える. 粒子計算によって得られたエネルギー吸収率を圧縮性流体コードに投入する事で衝撃波を駆動し, 獲得推力を算出した. 放電時に磁場を印可する事で電子サイクロトロン共鳴加熱を誘起しエネルギー吸収率を大幅に増大, さらにプラズマ拡散を磁場により阻害する事でより多くの投入エネルギーが推力へと変換される事が判明した. 低圧では, 磁場による共鳴加熱とプラズマの拡散防止効果により推力450倍に改善される事を示し, ビーム推進機の推進性能が外部磁場印可により改善される可能性を世界で始めて示す事に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ビーム推進実現に関して大きな課題であった安定飛行のロバスト性検証, シングルパルスに対する飛行運動のスケール則構築, 推進性能改善の3点を達成出来た. 査読付き論文1報が投稿済み査読中, 査読付き論文2報が受理されるだけでなく, 今後3報の論文を査読付き国際雑誌に投稿する予定である. さらに国際会議では4件の発表を行い, 来年度は国際会議で1件の招待講演が確定している. 本研究の研究成果は世界的に認められており, 当初の計画以上に研究が進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
ビーム推進機の飛行に関してシングルパルスに対するスケール則を構築するだけでなく, 複数回パルスに対しても力学的等価を維持出来るスケール則を構築する必要がある. 加えて, レーザー入射動的制御法を前提とした場合により飛行安定な機体形状を模索し, 名古屋大森准教授らと協力してレーザー動的制御飛行実証実験を行う. ビーム推進器の推進性能を改善する為に外部磁場を印可した際には, 外部磁場により電離構造が変化する事が分かったが, 計算負荷の観点から1次元的放電現象の変化しか捕らえる事が出来ていない. 今後は磁場印可時のプラズマ流体モデルを構築する事で計算負荷を抑え, 多次元的な放電構造変化を調べる予定である. また, 外部磁場に分布を与える事で発生する衝撃波に偏りを生じさせ, 飛行中に任意の横力, 回転モーメントを誘起させる事が出来る可能性がある. これは安定飛行を維持する為の姿勢制御に利用出来ると考えられ, 従来の姿勢制御法とは全く異なる制御法として提案出来ると考えられる. 電磁波-プラズマ結合計算と流体-軌道結合計算とを組み合わせて磁場分布制御による姿勢制御の有用性を数値的に検討する予定である.
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