研究課題/領域番号 |
13J05098
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北本 享司 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工光合成 / ルテニウム錯体 / 光水素発生 / メチルビオローゲン / 多電子貯蔵 / 分子触媒 / 水の可視光分解 / 光誘起電子移動 |
研究実績の概要 |
天然の光合成は、可視光吸収により生じた高エネルギー電子を効率良く伝達し、貯蔵する機能を備えている。このような高度な反応系を人工的に再現することは生体系の優れた機能に迫る上でも重要である。本課題では、多電子貯蔵機能を基盤とした水の可視光分解システムの開発を目的としているが、今回、より優れた光多電子貯蔵系の構築を目的とし、メチルビオローゲン部位を12個導入した分子触媒を合成し、その光触媒機能について検討した。犠牲還元剤EDTA存在下、酢酸緩衝溶液中で可視光照射をおこなったところ、ビオローゲンカチオンラジカル種の形成に起因する吸収スペクトルの増大が確認された。詳細なスペクトル解析をおこなったところ、この多電子貯蔵系は一分子あたり7-8電子を貯蔵し、分子中において(MV+)2を優先的に形成することが明らかとなった。各錯体水溶液の電気伝導度測定をおこなったところ、錯体濃度が減少するにつれて、モル伝導率が上昇することがわかり、水溶液中でカウンターアニオン種とイオン対会合体を形成することが示された。この結果から、これらビオローゲン集積錯体はEDTA(pH 5の水溶液中ではジアニオン種が主成分)とイオン対を形成し、効率よく電子貯蔵を達成することが示された。(MV+)2の電子状態について、ESRスペクトル測定、及びDFT計算を用いて検討したところ、一重項状態であることが示された。更に、水素生成触媒である白金コロイド、及びEDTA共存下で可視光照射をおこなったところ、水素生成が確認され、水素生成速度と電子貯蔵速度が一次の相関を示すことが明らかとなった。この結果から、電子貯蔵速度を高めることが、高効率な水素生成反応系の構築の鍵となることが示された。以上のことから、多電子貯蔵機能を基盤とした水の可視光分解システムの開発を推進する上で非常に重要な知見を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題は、多電子貯蔵機能を応用した水からの光化学的な水素発生、及び酸素発生システムの開発を目的としている。第2年度目の研究では、より優れた多電子貯蔵系の開発に成功し、その光誘起電子移動過程、分光学的・電気化学的性質、及び光化学的な多電子貯蔵挙動の詳細について明らかにした。更に、水素生成触媒共存下では、触媒的な水素生成反応が進行することを確認すると共に、効率の良い光水素生成反応系を構築する上で重要となる鍵因子の解明にも成功した。これに加え、前年に引き続き、多電子貯蔵機能を持つ単一分子光水素生成触媒系についても研究を推進し、従来の系に比べて高い触媒活性を示す新規触媒の開発に成功した。また、これらの研究成果をまとめ、学術論文として投稿した(現在審査中)。以上、本課題の基盤である光多電子貯蔵系に関して多くの知見を得ることができたため、当初の計画以上の進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年度目の研究では、光多電子貯蔵機能を示す分子触媒を合成し、その光多電子貯蔵機能について詳細に検討した。その結果、効率の良い多電子貯蔵系、及び光水素生成反応系の構築を実現する上で重要となる多くの知見を得ることに成功した。また、多電子貯蔵機能を有する単一分子光水素生成触媒系においても大きな進展が見られた。そこで、最終年度は酸素発生触媒を用いた、水を電子源とする光多電子貯蔵システムの開発を推進する。当初の研究計画に従い、多価カチオンである多電子貯蔵ユニットとアニオン性の酸素発生触媒による、イオン対会合体の形成を応用した光酸素発生分子システムやこれら各成分を共有結合により連結した分子デバイスの開発の開発をおこない、その光誘起電子移動過程、多電子貯蔵挙動、及び光酸素発生触媒機能評価を行う。更に、水素生成触媒共存下における、水の可視光分解反応についても検討する。また、水素ガス発生層と酸素ガス発生層を隔壁、またはイオン液体を用いて分離させた2相分離型の人工光合成システムの構築にも取り組みたい。
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