研究課題/領域番号 |
13J05100
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石川 貴悠 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速現象 / 有機伝導体 / 遷移金属酸化物 |
研究概要 |
本研究の目的は、モノサイクル赤外フルコヒーレント光を用いた高時間分解分光により、強相関電子系(二次元有機伝導体、遷移金属酸化物)における光誘起相転移の素過程を明らかにすることである。平成25年度は、このような研究目的に向けて、キャリア―エンベロープ位相(CEP)制御可能なモノサイクル赤外パルスの開発に取り組んだ。パラメトリック増幅による位相制御アイドラー光(1.7μm)をクリプトンガス充填した中空ファイバーを用いて、自己位相変調効果により1.1-2.3μmの広帯域スペクトルを発生させ、チャープミラーと形状可変鏡によりパルス圧縮を行った。その結果、従来の3サイクル赤外パルスの半分に相当するパルス幅7fsの1.5サイクル赤外パルスの発生に成功した。計画ではチャープミラーのみでパルス圧縮を行う予定だったが、細かい群遅延のずれを補償するために形状可変鏡を導入した。さらにf-2f干渉計によってCEPの安定化を確認した。完全な単一サイクル(以下)の極超短パルスの発生と物性研究への応用のために、スペクトルのより広帯域化、中空ファイバーのスループット向上、ビームプロファイルの改善に取り組んでいる。 また、現行の7fsパルスを用いた強相関電子系物質の光誘起現象の初期過程の測定を行った。ポンププローブ分光を一次元有機伝導体((TMTTF)_2AsF_6)を対象として行った。その結果、光誘起ダイナミクスの初期過程として、励起後、電子のコヒーレント振動が約50fsを経て成長してくる様子を観測することに 成功した。この電子の振動は、光電場によって生成される電子分極(周期~5fs、6600cm^<-1>よりは明確に低周波(1850cm^<-1>であり、励起後に自発的にそのような電子の低エネルギーコヒーレンスが成長していることを示している。半導体などの弱相関固体では見られない特徴的なダイナミクスであり、強い電子相関によって駆動されているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光源開発に関しては、現時点でパルス幅が7fs(1.5サイクル)まで短縮しており、さらに単一サイクルむけて順調に進んでいると言える。さらに強相関電子系における光誘起相転移ダイナミクスに関しても、現在の7fsパルスを用いて測定を始めており、電子相関を反映した電子コヒーレンスの成長を見出すなど新たな知見が得られており、計画よりも早く進展していると言える。全体的な研究目的の達成度としてはおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、赤外超短パルスを用いたポンププローブ分光実験を行い、強相関電子系の光誘起ダイナミクスを解明すると同時に、赤外パルスのモノサイクル化あるいはより短いパルスの発生を進めていく。より高安定、広帯域、高強度のパルス発生のために、レーザー強度の増強、ファイバー集光条件の最適化などを検討する。また、光有機相転移の研究においては対象物質を、現在の一次元有機物質から、二次元有機物質や遷移金属酸化物へ拡張する。
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