研究課題
本研究の目的は、モノサイクル赤外フルコヒーレント光を用いた高時間分解分光により、強相関電子系における光誘起相転移の素過程を明らかにすることである。平成26年度は、昨年度までに開発した瞬時電場強度が最大で60 MV/cmに達するパルス幅7 fsの赤外1.5サイクルパルスを用いて、電荷秩序絶縁体である二つの有機伝導体(α-(BEDT-TTF)2I3,(TMTTF)2AsF6)において分光測定を行い、強電場印加による電荷の局在化が起こることを明らかにした。以下に具体的内容を示す。i) α-(BEDT-TTF)2I3において、瞬時電場強度~10 MV/cmを持つ赤外7 fsパルスの照射後、50 fsの間のみ電荷の局在化(絶縁化)が観測された。絶縁化が観測される時間領域では周期20 fs(0.19 eV)の振動構造が見られた。この振動構造は、電荷秩序ギャップを時間軸振動として捉えたものであり、金属相中に電荷ギャップが生成したことを反映している。また、絶縁化は、分子内振動によるコヒーレントフォノンが励起後50 fs以降に発生する以前に観測されることを考え合わせると、強い瞬時電場による電子的な応答によって金属‐絶縁体転移が起きていると考えられる(Nature Commun. 5, 5528 (2014))。ii) (TMTTF)2AsF6においても同様の瞬時強電場を印加した結果、光照射直後に動的局在により移動積分が減少することが明らかになった。(TMTTF)2AsF6の電荷秩序相は、絶縁体としてのギャップが小さく(0.04 eV)、近‐中赤外領域(>0.2 eV)の光応答はドルーデモデルによって再現できる。この特徴を利用して、ドルーデモデルを用いた過渡反射スペクトルの解析により、移動積分の減少を有効質量の増大として観測することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
有機伝導体において赤外7 fsパルスを用いたポンププローブ分光測定を行い、強電場印加による電荷の局在化が起こることを実験的に明らかにした。従来の光励起による電荷秩序の融解とは逆に、電子の運動の凍結、秩序化に成功した新しい光誘起現象であると言える。強相関電子系における光誘起相転移ダイナミクスの新たな知見が得られており、全体的な研究目的の達成度としては当初の計画以上に進展していると考えている。
光源開発に関しては、赤外パルスのモノサイクル化あるいはより短いパルスの発生を進めていく。より高安定、広帯域、高強度のパルス発生のために、レーザー強度の増強、ファイバー集光条件の最適化などを検討する。また、光誘起相転移の研究に関しては、強相関電子系においてCEP制御した赤外パルスを用いたポンププローブ分光測定を行い、光電場の位相情報が光励起後どの過程まで保存されているかを明らかにする。
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Nature Communications
巻: 5 ページ: 5528-1-6
10.1038/ncomms6528
http://femto.phys.tohoku.ac.jp/