研究概要 |
本研究の目的は, クワインのOn What there is(邦題, 「なにがあるのかについて」)における「存在者とは変項とみなされることである」, というテーゼを再検討し深化させることである. この論文は分析哲学のおいて存在論を確固とした研究テーマとした重要論文であるが, 一方でこれは「ある文の使用者は, 彼が使用する文Aを真とみなすのであれば, Aを真とするために不可欠な定項に対応する対象の存在を認めなければならない」という主張を含んでいる. しかし, 我々は日常で, ある対象を非存在と認めつつも, それを含む文を真と認めるようなことが多々ある. 例えば, 「ペガサスは空をとぶ」である. つまり, クワインの理論と我々の日常における存在論には大きな隔たりがあるのであり, これがクワインの存在論の問題点である. 25年度では, この問題に対して非存在対象の哲学を標榜し, かつ, クワインが退けようとしたマイノング主義(特にG. プリーストの非存在主義)から彼の存在論の修正を試みた. プリーストがTowards Non-Being(邦題, 『存在しないもに向かって』)において定義している志向性の論理を用いて, クワインの議論を再構築し, そして, それによって, 当初の計画通り, クワインの理論を非存在対象を整合的に扱うことができる理論へと拡張した. この研究の意義は, クワインの理論の補修だけでなく, 非存在対象を分析する際の形式的で整合的な手段を提供することである. 非存在対象は, 先のペガサスなどのフィクション的対象だけでなく, 科学における理論的対象や数学における数などの重要な対象を含む. そのため, それらを分析する手段の確立はフィクション的対象であれば美学や文学理論, 理論的対象であれば科学哲学, 数学的対象であれば数学の哲学などへの貢献が期待できよう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では, 習得に時間がかかると思われた形式的手法(例えば, 様相論理学や集合論)であるが, 北陸先端大に移籍し専門家の先生方に直に教えを請うことで予定よりも早く, さらに予定よりも専門的で精確な知識を習得できている. 本研究は形式的な手法に依拠するものなので, これらの知識の習得が研究の進捗に繋がっている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の核心部分となるのは, 新マイノング主義者のG. プリーストの志同性の論理であるが, プリースト自身は, 意味論を定義しただけで, これの証明体系を提示していないし, 完全性も証明していない. そのため, 今後はこの志向性の論理の完全性を目指す. この論理は信念論理に多くの特徴を加えたものであるが, このままでは複雑すぎるため, 段階にわけて研究を進める. そして, 当面は, 信念論理をマルチエージェントに拡張し, さらにエージェントの量化を可能にする論理の証明体系と完全性を示す. その上で, この論理を四値に拡張し, さらに細かい特徴を加えて志向性の論理の完全性を目指す. それによって, 非存在対象を扱うことができる修正版クワイン存在論による非存在対象の分析がさらに詳細に行えるものであると考えている.
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