研究概要 |
本研究は, 不変多様体やトーラス体等の力学系に現れる様々な構造を利用して, 小惑星への低エネルギーの輸送軌道の設計を行うことを目的としている. 本年度は, (1)非自律系である平面楕円制限3体問題における不変多様体の解析および輸送軌道の設計, (2)太陽, 地球, 月, 宇宙機からなる平面制限4体問題を2つの平面制限3体問題の組み合わせと考えることにより, 地球から月へ向かう低エネルギーの弾道輸送軌道の軌道設計を行うことを目的とし, 主として以下の2点について研究を遂行した. (1)平面楕円制限3体問題に存在する不変多様体の解析は, 非自律系であるために一般に困難である. そこで, 海流や流体混合の流れの解析に用いられているラグランジュ・コヒーレント構造に注目し, 不変多様体の解析を行った. 長時間の積分によって現れるラグランジュ・コヒーレント構造について, ポアンカレ断面と不変多様体の複数回の交差として, その幾何学的構造の詳細を解明する事ができた. さらに, ラグランジュ・コヒーレント構造内部の軌道を選ぶ事により月へ向かう輸送軌道を設計することに成功した. 以上に関する研究成果として, 学術雑誌論文への発表を2件, 国内発表を1件行った. (2)地球, 月の離心率は太陽, 地球の離心率に比べ大きいことが知られており, 地球, 月, 宇宙機からなる系を平面楕円制限3体問題としてモデル化する必要がある. そこで, 太陽, 地球, 月, 宇宙機からなる平面制限4体問題を地球, 月, 宇宙機からなる平面楕円制限3体問題と太陽, 地球, 宇宙機からなる平面円制限3体問題の組み合わせとみなし, 不変多様体の構造に基づいて軌道を繋ぎ合わせることで, 地球から月へ向かう低エネルギーの弾道輸送軌道の設計を行った, 軌道設計の観点からみると, 非自律系を組み合わせた設計は行われておらず, 新規の設計手法を確立できたといえる. 以上の研究の成果として, 国際会議発表を2件行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における第一の課題を, 非自律系における不変多様体の解析および平面円制限3体問題の組み合わせに基づく軌道設計方法の拡張として, 研究を遂行した. 非自律系である平面楕円制限3体問題において, ラグランジュ・コヒーレント構造の解析により不変多様体の詳細を解明することができた. また, 地球, 月, 宇宙機からなる楕円制限3体問題と太陽, 地球, 宇宙機からなる平面円制限3体問題と組み合わせることで, 新規の軌道設計手法を示す事ができた.
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今後の研究の推進方策 |
平面制限3体問題を組み合わせるうえで, 各制限3体問題の有効領域を考慮した軌道設計は本研究を含めほとんど行われていない. 今後, 有効領域を考慮した平面制限3体問題の組み合わせによる軌道設計を行う必要がある. また, 現実の宇宙ミッションの軌道設計へ利用できるよう, 平面から空間へ拡張した空間制限3体問題を対象にし, その組み合わせによる軌道設計に取り組む予定である.
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