研究概要 |
交付申請書にも述べた通り, 私の研究の目的は, 与えられた共形類に含まれる山辺計量は本質的に一意であるという予想を解決することにある. ただし, ここで本質的な一意性とは, Riemann計量の定数倍と共形変換に関する引き戻しを除いた一意性を意味する. その目標に向けた第一歩として, この一年間では, 山辺計量の本質的な一意性が成り立つ共形類の具体例を新しく構成することを目指した. そして, 構成した具体例に関する結果を論文"Constant scalar curvature metrics on Hirzebruch surfaces"にまとめた(13.参照). その謝辞でも言及されている通り, Viaclovsky教授(Wisconsin大学, アメリカ)の大阪滞在中にいただいた貴重な助言がこの論文を執筆する際に有益であった. なお, Viaclovsky教授とお会いしたのは主に五月六日から八日までの出張の折である. また, 論文の提出前にその内容について講演する機会が三回あったが(13.参照), その中でも国際会議"Conference on Geometrical Analysis"での口頭発表は, 世界中の国と地域から研究者が集まっており反応が活発であったため, 特に意義深かった. また, 具体例と向き合い, かつファイバー束の位相と幾何に関する一般論を書籍や論文で学ぶことで, ファイバー束の構造を尊重するようなRiemann計量に対する理解が進んだ. なお, そのような一般論の勉強には, 購入した書籍 Steenrod "The Topology of Fibre Bundles" などが欠かせなかった. そのおかげで, 直積Riemann多様体上の山辺の問題に関する既存の結果のいくつかは, 自明とは限らないファイバー束においても同様に成立することを証明できた. このことも当該年度の研究成果の一つである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文が早く受理されたことと, その内容に関して適切な回数の講演を行えたこと力弐特に有意義であった. また, 当初の方針で研究目的を達成する上での大きな困難を認識した一方で, 9.に述べた一意性予想に対する有効性をより期待できる考えに至ることができた. その新しい方針については12.で述べる通りである. ゆえに, 研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度から目指すのは, 二つの共形多様体の間に共形構造を尊重するような写像が与えられたとき, それら二つの共形類のうちどちらが山辺計量を"多く"含むかを判定することである. この試みが成功すれば, 山辺計量の一意性に関する新しい視点を提供することができる. この視点を導入するためには, 私が研究の基礎を固めた上で専門家と議論をする必要があると考えるので, 直積多様体における山辺の問題の第一人者であるPetean教授(CIMAT, メキシコ)の下を2014年の夏に訪ねる. 訪問については既に了承していただいており, その詳細な日程について現在調整中である.
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