研究概要 |
北海道利尻島のウミネコ営巣地を、繁殖期である6月と7月, 緊殖終了後の11月にそれぞれ訪れ, ウミネコの繁殖状況調査, 営巣地土壌の採集と海洋生物採集を行った. 毎回の現地調査では営巣地を中心に島を取り囲むように合計5箇所からそれぞれ7種の海藻と3種の固着生物を採集した. 6月と7月における営巣地の土壌の窒素同位体比, および営巣地直下の磯に生息する海洋生物の窒素同位体比は, いずれも営巣地外のものよりも高い値となり, それらの場所ではウミネコの糞に由来する窒素が土壌や海洋生物に保持されていることが明らかとなった. また, 営巣地から数キロ離れた地点の海洋生物の窒素含有量や窒素同位体比は, 営巣地から数十キロ離れた地点のものと変わらぬ値を示し, ウミネコが沿岸海洋に供給する窒素は, 近隣地区に拡散されることなく, 営巣地直下の生物に取り込まれるか, もしくは沖合域に流出することが示唆された. 計画段階では, 上記の調査を青森県蕪島のウミネコ営巣地においても実施し, 結果を比較することを予定していた. しかし, 比較の有効性や調査の効率を考慮し, もう一つの調査地を蕪島から北海道の天売島, および愛知県美浜町に変更した. 両調査地には海鳥の一種ウトウとカワウがそれぞれ繁殖しており, 利尻島と同様の調査を行うことで, 営巣形態の異なる海鳥が周辺環境にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかを明らかにできる. ウトウの繁殖期である5月と8月に天売島にて, カワウの繁殖期である4月~8月に毎月美浜町にてそれぞれ営巣地土壌と営巣地周辺に生息する生物の採集を行った. その結果, 両種の営巣地の土壌や生物は, ウミネコと同様に, 糞に由来する窒素を多量に含有しており, それぞれの海鳥が周辺生態系に大きな影響を及ぼしていることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は研究体制の構築や調査手法の確立をしながらも, 複数の調査地で野外調査を実施できた. 調査の効率や学術的な意義を考慮して当初の計画から調査地を変えたが, 採集試料や分析手法の変更にも柔軟に対応することで, 大きな問題は生じなかった. 初年度であるため, 主要な結果の論文発表には至らなかったが, 関連する海鳥の個体群動態や窒素代謝に関する論文を出版し, 着実な成果をあげた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は, 利尻島における11月の試料を分析して, ウミネコの繁殖が終了し窒素供給が途絶えた際の, 土壌や海洋生物の窒素動態を明らかにし, ウミネコによる窒素供給が海洋生物に及ぼす影響の季節変動を明らかにする. また, 海鳥3種の結果を比較することで, 営巣形態の異なる海鳥が周辺生態系に及ぼす影響を検証する. さらに, 平成26年度には同様の調査を継続し, それぞれの海鳥の営巣状況の年変動が周辺生態系の窒素動態に及ぼす影響を解明する.
|