脳内出血病態に対する新規の有効な薬物治療戦略を確立することを目指し、前年度より開始した好中球走化因子であるロイコトリエンB4(LTB4)の脳内出血病態への関与についての検討を引き続き進めた。 コラゲナーゼを脳内に微量投与して作製した脳内出血モデルマウスにおいて、出血惹起24時間後まで脳組織中のLTB4含量が増加していた。LTB4受容体(BLT1)は主に好中球表面に発現しており、好中球の遊走に強く関わることが報告されている。そこでBLT1欠損マウスを入手し(順天堂大 横溝岳彦教授より供与を受けた)脳内出血病態の解析を行った。BLT1欠損マウスでは野生型マウスと比較して好中球の浸潤が抑制されており、出血後に観察される運動機能障害の程度も軽度であった。以上のような結果をもって、脳内出血の病態形成過程において脳内でのLTB4産生および好中球の浸潤が重要な役割を担うことを示した。 また、BLT1遮断作用を有する低分子量化合物ONO-4057(小野薬品工業より供与を受けた)が脳内出血発症後の投与で病態(好中球の浸潤、ミクログリア活性化、神経軸索への傷害、運動機能障害)を改善することを示した点は、新たな薬物治療標的としてのBLT1の可能性を提示したものであり、特に重要な知見である。好中球表面に発現しているBLT1が治療標的となりうるということは、難治性中枢神経疾患である脳内出血に対して末梢経由での薬物介入が治療として有効であることを示唆しており、今後の当該分野の臨床・前臨床研究の展開に先鞭をつけるものとして高く評価できる。
|