炎症や低酸素などの慢性的ストレス下におけるマクロファージの遺伝子発現機構は、動脈硬化性疾患や心不全などあらゆる循環器疾患の病態基盤として重要であるが、詳細な知見に乏しいのが現状である。本研究は、エピジェネティクスという観点からそのメカニズムを解明していくことを目指した。 研究者は、クロマチン免疫沈降法(ChIP)やFormaldehyde Assisted Isolation of Regulatory Elements (FAIRE)などの実験手技、次世代高速sequencerによる網羅的データの取得、得られた複数のデータの網羅的解析、など多様なエピジェネティクス解析により検討を進めた。 低酸素応答の鍵因子であるhypoxia inducible factor 1α (HIF-1α)は、炎症性刺激においても誘導され重要な役割を果たし得ることが近年示されてきた。そこで研究者は、低酸素と炎症という2つのストレスに注目し、まずマクロファージにおいて低酸素・炎症(LPS)刺激のいずれでもHIF-1α蛋白が発現することをWestern blottingにより確認した。次に、各刺激下におけるHIF-1αのDNA結合部位をChIP sequenceにより網羅的に解析し、比較検討した。その結果、低酸素・LPS刺激の両者に共通するHIF-1α結合部位だけでなく、刺激特異的な結合部位も少なからず存在することが明らかとなった。さらに、クロマチン構造の開閉を示すFAIRE sequenceのデータを合わせて統合的に解析すると、刺激依存的なクロマチン構造の開閉とHIF-1α結合が連関する傾向にあり、それに先立って幾つかの重要なヒストン修飾の変化も認められることが分かった。以上より、マクロファージのHIF-1αは、エピジェネティクスを介してストレス環境依存的なDNA結合を示すことが明らかとなった。
|