研究課題/領域番号 |
13J05234
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
李 謙一 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域, 特別研究員(PD)
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キーワード | 志賀毒素産生性大腸菌 / 牛 / 志賀毒素遺伝子 / インチミン遺伝子 / 疫学 |
研究概要 |
本課題の最終的な目標は牛から分離される非O157志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)の分子遺伝学的特徴とその保菌を減らす飼養管理方法を明らかにすることである。今年度はなるべく多くの牛から糞便を収集することと、多検体を効率的に処理できるSTEC分離法を確立することを目的として実験を行った。具体的には家畜保健衛生所の協力のもと牛糞便を採材し、同時に飼育管理方法に関する19項目について情報を収集した。牛糞便を材料としてコロニーハイブリダイゼーション法によるSTEC分離を試み、分離株については、志賀毒素1型遺伝子(stx1)、同2型遺伝子(stx2)、III型分泌装置の一部であるインチミン遺伝子(eae)および大腸菌O157、O26、O111、O103、O145、O121、O45特異的遺伝子の保有状況をPCR法により調べた。 牛糞便は、15県の110農場から各5~6検体、計551検体を収集した。コロニーハイブリダイゼーション法を用いることで、全ての検体についてSTEC分離を試みることができた。その結果、121検体から計132株のSTECが分離された。1株以上のSTECが分離された農場の割合は56.4%(110農場中62農場)であった。分離された菌株のstx保有状況は、stx1単独保有株が25株、stx2単独保有株が90株、stx1およびstx2保有株が17株であった。このうち、eae遺伝子を保有している株は、10.6%(14株)であった。O血清型特異的なPCRから、3株がO103、2株がO145、2株がO157、1株がO26、1株がO121と同定された。残りの123株は、型別不能であった。血清型が同定できた9株はいずれもeaeを有していた。今年度の結果から、国内の牛群にはSTECが広く分布し、その中には人での分離頻度が高い血清型が含まれることが明らかとなった。一方、定型的なIII型分泌装置を有さない菌株の割合が高く、これらの菌の病原性についてさらに調査する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は家畜保健衛生所の協力を得て、15県の110農場から、計551検体の糞便を収集することができた。また、コロニーハイブリダイゼーション法を用いたSTEC分離法を確立した。本法では1検体あたり約1000コロニーのstx遺伝子保有状況を1度に調査できるので、偽陰性を減らすことが可能となる。これにより今年度収集した551検体全てについて菌分離を試みることができ、121検体から計132株のSTECを分離した。多数の牛糞便収集とSTEC分離法の確立という所期の目標を達成できたことから、研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、牛糞便の収集を続けるとともに、分離したSTEC菌株および情報の解析を進める。 牛糞便の収集は、新たな15都道府県を対象に行う。これにより、全都道府県の3分の2を網羅することになり、各地域の傾向を偏りなく明らかにすることができる。分離STECの血清型、stx subtype、大腸菌のphylogroup、各種薬剤への耐性などを調査する。また、免疫磁気ビーズ法によってO157およびO26の分離を行う。 さらに、牛糞便と共に収集した飼育管理方法に関する情報を用いて疫学解析を行い、STEC陽性農場に特徴的な衛生管理指標を明らかにする予定である。
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