研究課題/領域番号 |
13J05244
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
溝口 貴弘 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | バイラテラル制御 / ジャイレータ / インピーダンス / 力率 / 通信遅延 / 位相特性 / 動作評価 / ハプティクス |
研究概要 |
本研究課題はバイラテラル制御を通じ、機械系におけるインピーダンスおよびアドミタンスの理解とその有効活用方法の追求を目的としている。当該年度の研究では特にバイラテラル制御系におけるインピーダンス伝達の特性、機械系における力率の概念に基づくエネルギーの流れに関する研究を行った。 1. 機械系においてインピーダンスと呼ばれる量は互いに双対な二つの変数、力・速度の比によって定義され、柔らかい、硬い、弾力がある等の力触覚特性を表す。電気系同様インピーダンスは大きさ(Magnitude)と位相(Phase)特性で表すことができる。本年度の研究では動作拡張により変動するインピーダンス特性を補正する手法、および、通信遅延下において位相特性が大きく変化し、伝達される力触覚が具体的にどう変化するかをPhasor図により示しその簡易な補正手法を提案した。 2. 機械系におけるエネルギーの変動を表す仕事率は力・速度情報で表すことができ、これらの物理量の実効値を求めることから機械系における力率を定義することに成功した。機械系の力率はこれまでの研究では考えられていなかった全く新しい概念であり、力率を考慮した運動評価、運動設計、機械設計等、研究の発展性に大きな期待ができる。特に前述の機械インピーダンスと密接に関係しており、単相の入力で機械インピーダンスが接続された系では力と速度の位相差がそのまま機械系の力率と等価になることを示した。一方で機械系の入力信号は電気系と異なり常に単相ではないため、機械系に特化した力率の導出手法が必要である。該当問題に鑑み、本研究では機械系の力率を実時間で導出する手法を提案し、実験によりその有用性を示した。 3. 機械系の力率を動作の評価手法として活用可能であることを示す為、バイラテラル制御を想定した動作教示システムにおけるエネルギー伝送の観点からの動作評価を行った。本評価では人間の身体性や道具の違いから生まれる誤差と動作教示に起因する誤差を、誤差から生まれるインピーダンスに流入するエネルギーの量から切り分れ、評価に用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はバイラテラル制御系において力・速度情報を効果的に伝達し、操作者の臨場感を向上することを目的としていたが、研究過程において力・速度情報から機械系において力率を定義することに成功した。機械系における力率の概念を用いることで、バイラテラル制御の枠に捕われず、広く運動に関して評価が可能となる。本研究成果を受け、当初の予定を大幅に前倒し本年度早期から、力率の概念を用いたエネルギーの観点からのモーションコントロールに着手した。研究結果の発信においても学術誌5編、学術会議15編と当初の計画以上に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では機械系における力率の概念の導入という大きな進展を得たため、今後はバイラテラル制御の枠にとらわれず広くモーションコントロールとして力率による動作の評価や設計を行うこととする。特に動作教示では時間軸に沿って力率の変動やインピーダンスの位相特性の変動が観測できるため、何時どの瞬間に的確に動作を提示すればよいのか等の指標となる。一方で力率の概念はバイラテラル制御系における新たな評価指標としてとても有力であるため、平行して研究を行う。特に時間遅延や動作拡張を伴うバイラテラル制御系では伝遠されるインピーダンスの特性が大きく変化するため、マスタ・スレーブ間で力率が大きく変化することが予想される。これは実際にスレーブが行った仕事に比べ操作者がむだにエネルギーを消費する可能性を示すため解決が必要である。
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