本研究の目的は、有性生殖を行う3倍体リュウキュウナミウズムシにおいて正倍数体の配偶子(精子は1倍体のみ;卵は1倍体または2倍体)が形成される減数分裂機構を明らかにすることである。前年度の結果より、雄性生殖系列細胞は減数第一分裂に入る前に染色体を削減し2倍体となっているのに対し、雌性生殖系列細胞は少なくとも減数第一分裂前期まで3倍体性を維持していることが示唆された。本年度はこの特異な染色体挙動の分子機構の解明を目指し、姉妹染色分体の結合に関わるコヒーシン、及びクロマチン構造を変化させる因子の一つであり一部の動物では染色体削減に関わることが知られるヒストン修飾に着目した。 1. 減数分裂特異的コヒーシンサブユニットRec8ホモログの機能解析 RNAiを用いてRec8ホモログをノックダウンしたところ、生殖器官形成及び精子形成には影響は見られなかったが、卵母細胞では正常な二価染色体が観察されなくなり、代わりに断片化した染色体像が観察されるようになった。ただし、ノックダウン個体の卵母細胞でも減数分裂開始期における相同染色体の整列は観察された。したがって、Rec8ホモログは相同染色体間のペアリングには必須ではないが、少なくとも卵母細胞においては減数分裂時の染色体構造の維持に関与することが示唆された。 2. 減数第一分裂前期の卵母細胞におけるヒストン修飾の解析 卵母細胞における相同染色体の対合と削減に対するヒストン修飾の関与を明らかにするため、修飾ヒストン抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、メチル化及びリン酸化についてはどの時期の細胞でも有意なシグナルを検出することはできなかった。一方、アセチル化レベルは減数分裂のステージに依って異なっており、減数分裂の進行に関わる可能性が示唆された。しかしながら染色体間で修飾の程度に差は見られず、染色体挙動への関与について確証を得ることはできなかった。
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