研究概要 |
本研究では人間の走行運動に着目し, これまでに実現されていない2足ヒューマノイドロボットによる人間らしい歩行および走行運動の実現を目的とする. 本年度は, 人体運動計測に基づく走行モデル考案および制御アルゴリズムの構築, さらにはそれらの有効性を検証するためのシミュレータおよびプロトタイプロボットの開発を計画していた. 人間の走行時の特徴として, 立脚が圧縮コイルばねのように振る舞い, ばね質点系でモデル化できることが挙げられる. これは走行時の床反力と人間の重心位置の高さ変位が比例関係にあるためである. また, 立脚の関節の動きに注目すると膝・足関節はねじりばねでモデル化でき, これが脚全他のばね性に寄与している. これらは関節の腱などの弾性要素の他, 筋肉の伸縮も含めて関節としてばねのように動くことによる. また, 走行運動中の立脚の弾性は, 直動および回転弾性ともに走行速度に応じて変化する. また, 同大学スポーツ科学学術院の共同研究者とともに走行時の人体運動計測を行ったところ, 人間は前額面において骨盤を正弦波状に動かしており, その動きが跳躍の補助などへ寄与しているというこれまで発見されていなかった知見を得た. そこで, 従来の質点・脚ばねから成る走行モデルを基に, 新たに骨盤を組み合わせたSLIP^2(Spring Loaded Inverted Pendulum using Pelvis)モデルを構築した. このモデルにおいて, 立脚の膝・足関節を回転ばねとしてモデル化し, 骨盤の前額面の運動による共振を利用して, 跳躍力を得る. このモデルに基づき, 可動骨盤と脚関節の弾性を有する2脚ロボットのプロトタイプを製作し, 骨盤の動揺と脚弾性により跳躍運動を実現した. これにより, 歩行運動に比べ走行運動時に必要になる地面を蹴る力を骨盤と脚弾性により得られることを確認した. この結果より, 人間と同等の速度での走行の実現に近づき, また, 人間のスポーツ競技者に応用することで競技能力の向上も期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である人間の歩行・走行の模擬に関して, 人間の走行時の特徴を見出すための走行運動計測を行った. またこれにより人間の走行時の特徴である脚のばね性および骨盤の運動を見出し, これらを導入した新たなモデルを考案した. また, これらを検証するためのシミュレーション環境および2足ロボットを開発し, これらによる上記特徴の模擬に成功し, 実際に走行に寄与することを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
人間の歩行・走行の模擬を目指す上で, まずは人間の下半身に相当する2足ロボットを製作し, それによる跳躍運動を実現したため, そのエネルギーを利用した走行運動実験を進めていく. そのために, 人間の走行時の離地中の特徴である, 地面との接触を防ぐための膝の素早い屈伸動作などが可能なようにロボットの脚部を改良する. また, 歩行・走行の両立を目指すために, 同じモデルによる歩行運動の実現可能性の検証も進める. この検証には, まずこれまでに開発した物理シミュレータによるシミュレーション環境を用いる.
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