実社会における意思決定では,従来の認知行動実験のように自己のみで行動を選択する機会は少なく,むしろ他者との相互作用によって個人の意思が大きく影響を受ける場面が多々ある。その過程には,他者の認識・理解が必要不可欠である。本研究では,他者の存在を実験系に導入し,どのように他者を認識し理解するか,その神経基盤の解明を目指している。このことは,意思決定過程における他者の存在の影響を明確にするとともに,他者とのコミュニケーションの神経基盤の解明にも繋がると考えられる。本年度は昨年度と同様に、2匹のラットを同一実験系に導入した3つの認知行動課題(観察学習課題、不平等嫌悪課題、協力課題)の実験を行った。昨年度と同様に3つの認知行動課題実験全てにおいて、ラットは他者を導入する前の刺激弁別学習では良好なパフォーマンスを示したが、他者を実験系に導入した後の行動指標(選択確率、反応時間、エラー率)を解析した結果、他者の存在による自己の行動への影響は検出されなかった。一方、共同研究の実施により、ラットが他者の表情を認識する能力を有していることを示唆する結果が得られた。これらの結果は、ラットを用いた社会性の神経科学的研究では慎重な課題設定を行うことで適切な結果が得られることを示している。
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