研究課題/領域番号 |
13J05281
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
仲屋 友喜 京都府立医科大学, 医学研究科, 日本学術振興会特別研究員(SPD)
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キーワード | 内在性レトロウイルス / ウシ / エンベロープ糖タンパク質 / 開裂 / 膜融合 / 小胞体 / ゴルジ体 / 細胞内輸送 |
研究概要 |
内在レトロウイルス(ERV)とは、祖先の生殖細胞に感染した外来性レトロウイルスが、遺伝によって伝播されるようになったウイルスのことで、宿主ゲノムの一部として存在している。多くのERVは変異や欠失によって機能を失っているが、一部のものは保存され、宿主の生理機能を担うことが知られている。哺乳類のゲノムの約10%はERVで占められており、ERVが生物の進化に与えてきた影響は非常に大きい。しかし、多くのERVの役割や内在化機構に関する詳細は未解明である。本研究課題は、外来性レトロウイルスが宿主ゲノムに取り込まれ、内在性レトロウイルスとなる過程で生じるウイルスの変化とその分子機構を調べるものである。 本年度は、研究計画書に記載した内容のうち、『ウシ内在性レトロウイルス(BERV)-K2エンベロープ糖タンパク質(Env)の開裂不全メカニズム』の研究について、間接蛍光抗体法やイムノブロット法などを用いて詳細を解析した。その結果、BERV-K2 Envは小胞体からゴルジ体へ輸送されなくなったため、正常なプロセシングを受けることができず、機能不全になっていることが明らかとなった。さらに、BERV-K2 Envと非常に相同性が高くウシ生体内で機能を有するBERV-K1 Env (Fematrin-1)との比較により、その機能不全はBERV-K2 EnvのSUドメインにおける26個のアミノ酸に起因することが示唆された。このアミノ酸はBERV-K2が内在化する過程で生じた変異であると考えられる。本結果は、レトロウイルスの内在化に伴う変化の解明のみならず、関連するレトロウイルスのEnvのプロセシング機構を解明する上で、有意義な知見であると考えられる。本研究成果をまとめた論文は、米国ウイルス学専門誌であるJournal of Virologyへ採録されることが決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初に計画していた研究小課題のうち、『ウシ内在性レトロウイルス(BERV)-K2 Envの開裂不全メカニズム』の研究内容を論文にまとめることができた。また、他の小課題についても計画に近い進捗状況であるため、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
他の小課題については引き続き解析を行い、論文にまとめるためのデータを集積していく予定である。また、今年度からはペンシルバニア大学のSusan Ross教授のご協力のもと、レトロウイルスの進化におけるAPOBEC3タンパク質の影響の解析も行っていく。
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