研究課題
当該年度における研究の成果の1つは、NASAゴダード宇宙飛行センターと共同で開発を進めているTPC型X線偏光計に対して、性能評価試験を行ったことである。1億テスラという地上では作り出すことの難しい強磁場を持つ中性子星連星の、X線偏光観測を実現可能にすることは、量子電磁気学の非線形効果の検証にとって有効である。私は、前回の検出器較正試験の結果に見られた偏光角に対する系統誤差を軽減するために、Readout boardのデザインを改良した、TPC型X線偏光計の較正試験をBNL-NSLSにて2014年9月に行った。ここで取得したデータ解析を私が主導し、系統誤差が軽減できていることを示した。現在はこの結果を投稿論文にまとめており、投稿直前である。また、前年度に自身が開発したX線発生のタイミングが分かるLEDを用いたModulated X-ray Source(MXS)を用いて検出器に用いているヂメチルエーテルガス中での電子のドリフト速度測定に成功した。天体解析の面では、2014年11月に行われたPLASMA2014会議の中の国際シンポジウムにて、宇宙における強磁場中のプラズマ現象について招待講演を行った。近年高強度レーザーを用いて1000 T程度の磁場を作り出す手法が確立され、地上においても強磁場中でのプラズマ物理の研究が進んできていおり、地上のプラズマ実験との連携について議論を行った。さらに、すざく衛星搭載Wide-band All-sky Monitorが捉えたマグネター1E 1547.0-5408のアウトバースト中に初めて検出された軟ガンマ線帯域の連続スペクトルのカットオフに対して、検出器のデータ解析や議論の部分を補佐し、第2著者として論文をまとめた。このカットオフは、量子臨界磁場を超える量子電磁気学の非線形効果である光子分裂による可能性が有り、重要な結果である。
2: おおむね順調に進展している
以下が達成度の自己評価の理由である。○X線偏光計の偏光感度の性能評価を、シンクロトロン放射光施設で行い、得られた結果を基盤に、X線偏光衛星計画PRAXySの提案書がNASAの小型衛星計画に提案されたこと。また、今年度中にTPC型X線偏光計の検出器性能評価に関する論文を学会誌に投稿する見込みがあること。○偏光計の重要な部分である、自身が作成したX線発生のタイミングが制御できる小型X線発生装置を用いて、日本国内でもX線偏光計の立ち上げに成功し、昨年度SPring-8のビームラインを用いて、X線偏光感度の性能評価に関するデータを取得できたこと。また、X線発生装置のさらなる小型化、低コスト化を目指し、紫外線LEDではなく安定度の高いカーボンナノ構造体を用いたX線発生装置の実証に成功したこと。○マグネター1E 1547.0-5408のアウトバースト中に見られた、量子電磁気学の非線形効果である光子分裂による可能性も考えれられる、軟ガンマ線帯域のスペクトルカットオフに対して、共著者として学会誌に発表できたこと。○招待講演を通して、地上のレーザーを用いたプラズマ物理の実験チームと、強磁場中でのプラズマ物理に関する意見交換、将来の共同実験の可能性について議論できたこと。
今後は、以下の3点に焦点をあてて、研究を進めていく。1、シンクロトロン放射光施設にて行ったNASAのTPC型X線偏光計の偏光感度に関する性能評価実験のデータの解析を行い、論文にまとめる。2、カーボンナノ構造体を用いた小型X線発生装置の開発を進める。3、硬X線帯域で最高感度を誇る米NuSTAR衛星の、今年度行う公募観測において、NASAのPottschmidt博士と共同で作成した、中性子星連星4U 1626-67の観測提案書が優先度Aで採択されているため、NuSTARによる観測が行われ次第速やかにデータ解析、及び論文や学会発表を行う。中性子星連星4U 1626-67は、自身が過去に日本のすざく衛星のデータを用いて、中性子星の自転位相によって硬X線帯域に見られるサイクロトロン共鳴構造が変化することを示した天体であり、この構造を詳細に調べることができれば、磁場勾配の効果や、密度の情報を得ることができるため、強磁場中でのプラズマ輻射輸送過程の研究にとって重要となる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Publication of the Astronomical Society of Japan
巻: 67 ページ: 印刷中
10.1093/pasj/psv011
Proceeding of SPIE
巻: 9144 ページ: 91444N
10.1117/12.2057159