今年度の前半は理論研究(陪審定理の拡張や進化ゲーム理論)のまとめをし,いくつかの論文が査読付き国際誌に掲載された.なお,集団が特定の合意に至る確率やそれまでにかかる時間を分析するべく,選好が異なる複数集団間の確率進化ゲームを研究していたが,固定確率の一般式は導出されたが.固定時間については,固定確率よりもダイナミクスについて多くの情報が必要であることが分かり,年度内に一般式を導出するには至らなかった. 以上に加え,今年度は,集合的意思決定状況において人はどのような手続きに正当性を感じるか,あるいは手続きをどのように利用して自分の意見を正当化するのかを分析すべく質問紙を用いた実験を行った.結果として,議題の構造は同じでも提示のさせ方で結果の選好に違いが生じるという古典的なフレーミング効果に加え,特定の意見を支持するにあたって特定の手続きが有意に多く用いられる(効果量も中程度)という結果も得られた.さらに,参加者に回答理由を尋ねた自由回答の結果をテキスト分析することで,議論の補強も試みた.こうした手続きの選好や手続きの戦略的な利用に関連する知見は,今後の規範理論やゲーム理論の研究に寄与する可能性がある.この結果については国内学会で報告し,論文もほぼ書きあがった. 3年間を通じて、予定していたほぼすべての手法を用いて,集合的決定の研究を通して社会の様々な水準の現象の理解に取り組むという本研究課題の目的に沿った成果を挙げることができた.それらを有機的に束ねて1つの知見を生み出すまでには至らなかったが,それを今後行うための基礎となる分析枠組みや知見は提示できたと考えている.
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