研究課題
抗てんかん薬であるバルプロ酸(VPA)の妊娠期の服用が出生児の自閉症発症リスクを増大させることから、胎生期にVPAを曝露した齧歯動物が自閉症のモデル動物として用いられている。これまで当研究室では、胎生12.5日目にVPA 500 mg/kgを曝露したマウスが、生後に自閉症様の行動異常や脳組織学的な変化を示すことを見出している。本研究では本モデルマウスの自閉症様精神障害発現に関わる分子機序の解明を目的としている。前年度は本モデルマウスの前頭前皮質におけるドパミン(DA)神経系の機能低下を見出しており、当該年度は行動異常およびスパイン密度低下にDA神経系の機能低下が関与しているのか追究した。以前に当研究室では、注意欠陥多動性障害(ADHD)治療薬であるメチルフェニデートおよびアトモキセチンを低用量で慢性投与することにより、前頭前皮質のDA神経系を選択的に活性化することを見出している。そこで、これらの薬物によるVPA曝露マウスの行動異常改善効果について検討した。両薬物の単回投与ではVPA曝露マウスの行動異常は改善しなかった。しかし、2週間の慢性投与により、社会性行動障害および認知記憶障害、さらに前頭前皮質ならびに海馬におけるスパイン密度の低下が改善した。また、当研究室ではVPA曝露マウスの行動異常および大脳皮質の構造変化に性差があることを見出している。そこで、DA神経系の変化における性差を検討した。胎生期にVPAを投与した雌マウスではメタンフェタミンによる運動量の増加ならびに前頭前皮質のDA遊離量の増加、前頭前皮質のDA受容体の発現量について、対照群との有意差はみられなかった。以上の成績は、前頭前皮質のDA神経系の慢性的な活性化がVPA曝露マウスの行動異常およびスパイン密度の低下を改善すること、胎生期VPA曝露によるDA神経系機能の低下には性差があることを示している。
2: おおむね順調に進展している
前年度に引き続き、胎生期VPA曝露マウスにおけるドパミン神経系の変化について解析を行った。今年度は、VPA曝露マウスにおけるドパミン神経系の機能低下に関する性差、ならびに前頭前皮質の慢性的な活性化による行動異常およびスパイン密度低下の改善を見出した。これらの知見は、自閉症の病態解明ならびに治療戦略の開発に大きく貢献するものであると考えられるため。
今後は、VPA曝露マウスの行動異常ならびにスパイン密度低下の改善における、前頭前皮質のドパミン神経系活性化の意義を追求していく予定である。まず、両ADHD治療薬は、前頭前皮質のドパミンのみならずノルアドレナリンの遊離も増大させる。そのため、両薬物の改善効果に関わる神経系の特定を行う。具体的には、ドパミン受容体もしくはアドレナリン受容体に対するアンタゴニストとADHD治療薬を共処置し、各種行動試験を行う。また、今回見出したVPA曝露マウスの行動異常に対する改善効果が、ADHD治療薬特異的なものであるのか、非定型抗精神病薬などの前頭前皮質のドパミン神経系を活性化することが知られている他の薬物、もしくはドパミン受容体に選択的なアゴニストの投与による、改善効果を検討する。さらに、ADHD治療薬によるスパイン密度低下の改善に関わる詳細な分子機序、ならびに行動変化とスパイン密度の関連性についても検討を行いたいと考えている。
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Pharmacology Biochemistry and Behavior
巻: 126 ページ: 43-49
10.1016/j.pbb.2014.08.013.
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